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埼玉県公立高校入試問題予想

2017.1.26

国語B

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1 次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。

 先日、石川県加賀市の山中温泉を訪ねました。ここの特産である 山中塗 やまなかぬり の職人さんたちからお話を伺ったのですが、その時にスーッと腑(ふ)に落ちる感覚を得ました。

 つまり、江戸時代には、彼ら加賀の人たちにとっては、江戸の徳川将軍よりもまず先に、加賀の前田の殿様がいました。彼らにとってはまず加賀の国ありきで、その先にようやく将軍が治める日本国という大きな概念があったわけで、彼らにとっての「国」は加賀藩だったわけです。そして彼らは、その国の中で、 蒔絵 まきえ 漆器 しっき の技法を編み出し、美しい文化を創り上げてきた。

そしてその感覚は、今の日本人にも共通するものだと思うのです。まず日本という国があり、その先に世界がある。

 僕は今まで、世界の中でのマーケットやグローバリズムの問題ばかりが気になり、世界市場で戦えない日本のことをずっと歯がゆく思っていました。日本の内ばかりにこもって世界を見ようとしない、世界からどう思われているかも考えない。

 現在、世界における日本の立場は、かつての「ジャパン・バッシング(日本 たた )き」から「ジャパン・パッシング(日本軽視)」を経て、今では「ジャパン・ナッシング(日本無視)」にまで、落ち込んできています。世界の中で、我々日本人ができること、なすべきことは何なのか。日本人は、日本語や日本国内の市場に固執するのではなく、もっと広く世界を見なくてはならない。そして自分たちの置かれている立場にもっと敏感になり、危機感を持たねばならない。そう思ってきました。

 けれどもここにきて、とても重要なことに気がついたのです。

 それは、いくらグローバリズムだなんだと叫んでも、結局はまず、自分の土俵で価値を生み出さなくては意味がないということです。僕たち日本人には、歴史的・文化的に培ってきた感性があり、価値観があり、美意識があります。その中で試行錯誤することによって、新たな物を造り、価値を創造し、意見を生みだし、文化を成熟させてきた。その土台なくして、世界に発信していくなどありえない。自分たちの土俵での勝負があり、その次に世界の土俵での勝負が待っている。そう気づいたのです。

 しかし、考えようによっては、これこそ非常に難しい課題でもあります。なぜなら、その際必要になるのは、自分たちの「内なる基準」のみだからです。たとえば、あるマーケットがあり、その市場で出回っている商品を分析し、それに見合った商品を開発していくだけなら、もしかしたらその方が簡単なことかもしれません。しかしそれでは、売れる商品は作れても、新しい価値や文化は創れない。伝統を受け継ぎ、さらにその上に新しい価値を創造するためには、もっと厳しい視点が必要になる。より良きもの、より高きものを目指す。妥協は許されない。しかもその基準値は、他でもない自らの精神の内にある。それこそが、ものづくりにおいて、いちばん厳しい基準なのだと思います。

 たとえば最近は、国際的な映画祭に、日本人監督による作品も多く出品されるようになりました。アニメにしろ、実写にしろ、かなり高い評価を彼らは受けています。それは素晴らしいことで、日本人としてとても誇らしいことです。

 しかし、もし彼らが結果として受賞を逃したとしても、それは彼らの作品の価値を損ねることではないということを、しっかり理解していなくてはならないと思うのです。もちろん賞を取れればそれに越したことはありません。だけど、もしその受賞ということだけを基準にしてしまうと、どんどん間違った方向へ行ってしまう。創造者・表現者は、そういう目に見える評価ではなく、あくまで自分の中の「内なる基準」にのみ誠実に従い創作活動をしていくべきなのです。それはつまり、ハリウッドで通用するかとか、ワールドワイドに活躍するとか、そういうことではないのです。

 グローバリズムの問題は、ある程度マーケットの流通の問題とも から んでいます。たとえば映画の場合なら、日本市場の中だけで公開される邦画は、たしかに世界に向けての影響力は低い。どんなに良い作品でも、なかなか世界に発信はできないかもしれません。それに比べてアメリカのハリウッドで公開される映画は、流通という面だけ見れば、格段に大きい影響力を持ちます。だからこそ、日本人俳優がどれだけアメリカで成功できるか、ヨーロッパに受け入れられるか、そういうことが話題になるのだと思います。

 しかし、流通するマーケットが広かろうが狭かろうが、物を造り作品を創る人々が、創作の際に基準にするのは、「内なる基準」しかないのです。それは先に見てきた「ビジョン」の話とも通じると思います。魂が求める理想の美、想像の先に見える完成された姿、ものづくりにおいては、これらは絶対的に不可欠な要素です。個人であれ企業であれ、大切になるのは「内なる基準」と理想とする「ビジョン」。これがある人は揺らがない。浮き足立たない。彼らにとっては、いくら売り上げたとか、どれだけ世界に通用したとか、そういうことは全て二の次なのです。しかし、その「内なる基準」と確固たる「ビジョン」を持ってさえいれば、おのずと評価はついてくるものです。先ほどの漆器も海外で高い評価を受けています。無理にいきんで西洋の基準に迎合することなく、日本独自の美意識でもって、世界でもきちんとその立ち位置を確立できている。他の分野にしても、それは同じことではないでしょうか。

茂木健一郎 もぎけんいちろう 『「赤毛のアン」に学ぶ 幸福 しあわせ になる方法』による)

(注) 蒔絵や漆器…伝統工芸品。
    先に見てきた「ビジョン」…『赤毛のアン』の主人公アンには明るいビジョン(未来像)があり、自分の理想とする世界や美の基準、善悪の判断をしっかりともっていると筆者は述べている。

問1  文章中の        線部に「それこそが、ものづくりにおいて、いちばん厳しい基準なのだ」とあるが、筆者はここでどういうことを述べているか。その内容を「売れる商品」、「精神」、「基準」の三つの言葉を必ず使って、「……が必要だということ。」の形になるように、六十字以上八十字以内で説明しなさい。ただし、句読点その他の符号も字数に数えるものとする。

問2  この文章で述べられている内容と合っているものを、次のア〜エから一つ選び、その記号を書け。

  加賀の蒔絵や漆器は、日本を代表する工芸作品であるが、職人たちの伝統を受け継ぐ態度が日本らしさを世界の人々に感じさせたので、海外でも高い評価を受けるようになった。

  加賀の蒔絵や漆器は、日本を代表する工芸作品であるが、もとは殿様のために職人たちが丹精を込めたもので、その歴史と伝統によって海外でも高い評価を受けるようになった。

  加賀の蒔絵や漆器は、日本の一地方で発展してきた工芸作品であるが、うまく市場に出ることによって世界中に知られるようになり、海外でも高い評価を受けるようになった。

  加賀の蒔絵や漆器は、日本の一地方で発展してきた工芸作品であるが、職人たちが自分の納得のいく作品を追求し続けてきた結果、海外でも高い評価を受けるようになった。

解説

スクール21(株式会社エジュテックジャパン)

小学部・中学部を中心とした学習塾。県立難関校の合格データを蓄積した指導には定評がある。

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