埼玉新聞ロゴ

2016.4.14

マイナス金利導入後の世界

本澤実

埼玉学園大学院客員教授

本澤実

ほんざわ・みのる 58年生まれ。東京大学農学部卒業。英国ケンブリッジ大学大学院修了。埼玉大学大学院修了。博士(経済学)。日本みらいキャピタル副社長などを経て、共生投資顧問代表取締役。10年より現職。専門は国際金融論。主な著書に『国際金融システムの再構築』など。

リーマンショックを乗り越えてきた世界経済は、中国経済の減速や原油価格下落など山積する問題を前に再び変調をきたしている。

日本経済も、デフレ脱却が達成できない中で経済成長は一進一退の状況である。こうした中で、日銀が導入したマイナス金利政策(NIRP)が議論を呼んでいる。

■マイナス金利導入の理由

日銀は、長期国債購入による量的質的金融緩和(QQE)によってデフレ脱却を目指したが、実現が困難なことからQQEに加えてNIRPの導入を決めた。

日銀は、この政策目的は「2%の物価上昇率を早期に実現して、実質金利の低下を促すこと」であるとしている。円相場の下落を通じた資産価格上昇や、投融資や消費の拡大を意図しているのだ。

昨年半ば以降、アベノミクスを背景とした円安から、円高方向へと相場の流れが変わっている。とくに、日本の貿易額の約40%を占める米国と中国の通貨に対して円が強くなっていることは、日本の輸出産業にとって逆風となっている。

円安を促す政策は、株価上昇と輸出振興の一石二鳥の手っ取り早い景気対策なのである。

■マイナス金利導入による影響

NIRP導入は、QQEによる期間利鞘の縮小で大きな影響を受けている銀行収益に、さらに追い打ちをかける可能性が高い。

預金金利は貸出金利に比べて下方硬直性があり、銀行は将来収益の縮小への不安に直面している。銀行預金の期間短縮化による流動性リスクの拡大もあり、銀行は貸出に一層慎重になる可能性が高い。銀行の信用創造機能の低下は、経済成長戦略にはマイナスの影響を与えるだろう。

国際決済銀行(BIS)は、先月公表した報告書でNIRPの効果に対して疑問を投げかけた。欧州の先例で見られるように、NIRPの長期化は銀行部門に深刻な打撃を与え、生命保険や年金基金の収益性や健全性を弱める可能性があると指摘している。

■どうなる今後の日本経済

BISの見解を裏付けるように、欧州のNIRP導入以降は世界銀行株指数(MSCI World Banks Index)が大幅に下落を続け、日本の銀行株も今年1月以降低迷している。

経済の体温計といわれる金利がマイナスで推移する状態が続くと、銀行システムの機能不全が経済の一段の悪化へとつながり、日本経済は長期衰退へと向かう可能性が高い。

さらに懸念が大きいのが、政府債務がGDPの200%を超えている日本の財政問題が、NIRPによって先送りされることだ。日本の累積債務が国債暴落を引き起こすという懸念が、NIRPによって政府債務を民間が負担するという方向へ転換される可能性が浮上してきたといえる。

これは沈黙の債務削減であり、ハイパーインフレよりも日本経済へのダメージは甚大かもしれない。NIRPというパンドラの箱を開けた我々は、今こそ衝撃に備える必要があるのではないか。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=