埼玉新聞ロゴ

2016.5.12

転換点の日本、世界経済

冨家友道

埼玉学園大学経済経営学部客員教授

冨家友道

とみいえ・ともみち 1956年生まれ。東大教養学部卒。83年アーサーアンダーセンコンサルティング部門(現アクセンチュア)入社、96年金融市場部門北アジアヘッド、98年金融監督庁参事、バーゼル国際銀行監督委員会日本政府代表、01年朝日アーサーアンダーセン金融部門ヘッド、05年みずほ証券経営企画グループ、12年Protiviti LLC Executive Principal、16年三井住友アセットマネジメント

■何が起こっているのか

安倍政権発足以来、日経平均株価の順調な上昇等で比較的順調に推移するかに見えたわが国経済であるが、昨年の中国の突然の通貨切下げを契機とし、外国為替市場や株式市場が乱高下し世界の金融市場が混乱した。特に今年に入りわが国の経済成長率がマイナス圏に入り、日銀は目標金利をマイナス金利とするに至っている。

アベノミクスで回復の途上にあると思えたわが国の経済、さらには世界経済に何が起こっているのだろうか。わが国の今後の方向の選択を考えるために2008年のリーマンショック以来の世界の流れを振り返りながら、我々の置かれた現状について考えてみよう。

■08年のバブル崩壊

08年までの世界経済は欧米のバブルと中国の高度成長にけん引され先進国、新興国だけでなく最貧国を含めた全世界が好調な経済を経験した。特に、急速に成長した中国が世界の工場として低価格の製品を大量に輸出したことで、物価は安定しインフレなき経済成長を経験することになった。逆に日本は長期にわたる物価の低迷、つまりデフレを経験することになる。世界経済はこのようにグローバル化しそのメリットを享受できるようになった。

ところが、08年のバブル崩壊でグローバル化のメリットが正に逆転し、世界経済は一転停滞することとなった。

最初の大きな影響は蓄積のない新興国での失業の広がりが『アラブの春』として爆発し、政治混乱から現在の爆発的な移民へと発展、欧州と中東・北アフリカに困難な課題を突きつけている。中国は巨額の財政投資でこの難局を乗り越えたが、巨額の投資が不動産バブルの崩壊へと進み、90年代のわが国に類似した状況になっている。現政権は”中国の夢”の標語のもと、経済の調整と版図の再定義を企図している。

■わが国の受けた打撃

わが国は80年代のバブルの反省から米国のバブルの直接影響は免れたが、グローバル化した世界経済の直撃を受けたのみならず、2011年の大震災による打撃を受けた。わが国は少子高齢化が世界最速で進む課題先進国であり、新たな社会のビジョンの確立に向け、進む途上でグローバル経済の混乱に巻き込まれたのである。

アベノミクスでは痛みを伴う改革の前段階として、デフレマインドの払しょくのため、大胆な金融政策が取られ、今後はAIや知識データを活用し、生産性を飛躍的に向上させるための社会制度の抜本的な見直しである第3の矢を着実に実施することが期待される。

一方、米国はリーマンショックによる金融機関の困難をわが国同様公的資金注入で乗り越え、幸運にもシェールオイル・ガスによる低コストエネルギーの自給により経済は回復し、金融緩和終了の議論が市場を騒がすまでになっている。

エネルギーの自給化は米国の中東関与を低下させ混乱に拍車をかけた面もある。また、公的資金の注入に際し、わが国では金融機関経営者に対し懲罰的な給与カット等が実施されたが、そうした対応をしなかった欧州、米国では所得格差の一層の広がりもあり政治不信がまん延することになった。この不信が欧州での極右政党の躍進や、政治経験のないトランプ氏の共和党大統領候補をもたらした。

■地殻変動の時期

さて、こうした経緯も500年の歴史的視点からは大きな地殻変動を推進する一つのきっかけにすぎない。“アラブの春”は欧州の500年続いたグローバルパワーとしての植民地支配の最終的な終焉(しゅうえん)と見ることができ、列強の植民地であった中国も含め世界全体が政治的地殻変動の時期に入ったことを意識すべきである。

世界が新たな均衡点にシフトしようとする今、経済がグローバル化し、生産拠点も既に海外に移転しているわが国で自国の政策を安定して進めるためには、地政学リスクの影響を最小化する政策が必要である。

安倍政権の積極的な外交政策は目下の地殻変動に対し、わが国の安定を守るために極めて重要な政策であると考えられる。我々国民も世界中で今まさに起こっている世界の地殻変動を直視し、自分の身は自分で守る覚悟を改めて自覚する時期が来たのではないか。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=