埼玉新聞ロゴ

2016.5.24

イスラーム文化の理解を

清川雪彦

東京国際大学経済学部客員教授

清川雪彦

きよかわ・ゆきひこ 42年生まれ。東京大学大学院経済学部研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。専攻アジア経済論。06年経済学部教授。

今年も新学期が始まり、県内の多くの大学では相当数の留学生を新たに受け入れたことと思う。本学でも漸増傾向にあるが、近年の大きな特徴は中国からの留学生が減り、イスラーム圏からの留学生が急増していることである。

従来はインドネシアなど東南アジアのイスラーム社会からの留学生が主であったのに対し、最近はバングラデーシュやパーキスタン、アフガニスタンさらにはイランやUAE、サウジアラビアなど南アジア・中近東諸国からの留学生が明確に増加しつつある。

■イスラーム圏からの留学生

イスラーム(教)の国々といっても、そのイスラーム性や文化的基盤は多種多様である。しかし、イスラーム教徒である限り、その社会的行為・実践は精神的規範(信仰)から分離されることなく統一的に規定されているがゆえ、日常の社会生活でも様々な宗教的規範との斉合性が求められる。

その結果認証された(ハラール)食品のみの摂取やラマダーン(ヒジュラ暦 九月)の断食実施あるいは女性のベール着用等々、種々の社会的制約が存在する。それゆえ彼らの日本での生活もそれなりに大変ではあるが、最近県内でもハラール食品店などが増加しつつある傾向は大いに歓迎すべきといえよう。

いずれにせよ、こうしたイスラーム諸国からの留学生増大は、近い将来それらの国々との経済交流の急速な活発化の前兆を意味している。

残念ながら、これまでは基礎的情報の不足や相手国統計データの不備などもあり、十分その潜在的可能性を開拓してこなかったと判断される。しかし、今後予想される輸出入や投資活動の活発化には、まずそれら諸国の文化に対する十分な理解から始めることこそが肝要であろう。

■市場取引の前提条件

通常我々は、市場取引には当然の前提として、財産権の保護や公正な取引実現のための自由や平等の保証等が不可欠なことを熟知している。しかし、文化の異なる国との交易や投資活動には、さらに加えて相互理解(信頼)もまた必要不可欠となる。すなわちこの信頼は、相手国の文化・異文化への十分な理解を通じてのみ得られるものである。

なぜならば、文化とは人々の価値観や考え方の体系を中心とする総合的表現に他ならないがゆえ、それは同時に市場経済での倫理観や取引慣行なども包含していると言ってよい。

それゆえそれらを知ることで、取引の安全性や市場のルールが取引国相互間で齟齬なく形成されていくものと考えられる。他方そうした文化は、人々の伝統的嗜好や宗教的禁忌などを通じ、取引の対象となる財やその代替財の選好や需要にも大きな影響を与えていることが広く知られている。

最後にイスラーム圏といっても、国によりそのイスラームの受容度は様々であり、事実人々の生活態度や慣習は、どの社会でもそう大きく異なるわけでないことも、また確かであろう。しかし今後イスラーム市場との交易を深めてゆく際には、まず宗教をも含めたその文化を十分に理解しておくことが、最も有効にして且つ不可欠であると思われる。

(注)文化とは、特定の集団において共通の理解や感情、あるいは了解や評価などをもたらす「意味の体系」を指す。建築や芸術はその具現的形態にすぎない。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=