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2016.5.31

温暖化防止と日本の鉄鋼業

劉博

川口短期大学ビジネス実務学科准教授

劉博

りゅう・はく 1980年生まれ。埼玉大学経済学部卒。埼玉大学大学院経済科学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。川口短期大学ビジネス実務学科准教授、専門は環境会計、経営財務論。主な著書に『信用格付けと会社財務・会計制度の新動向』(共著、泉文堂)。

■国際的合意が実現

地球温暖化とは、大気中の温室効果ガスの濃度が高くなることにより、地球表面の平均温度が長期的に上昇する現象です。産業革命以後、化石燃料の大量消費により、CO2などが過度に放出されたことが主因と考えられています。海面上昇による陸地の消失、熱波・干ばつによる食料・水不足など、温暖化が長期にわたって人類社会に甚大な被害をもたらすと予測されています。1992年、「国連気候変動枠組条約」が採択され、日本など締約各国の温室効果ガス排出削減努力や途上国への技術移転などを通じて温暖化の回避を目指す国際的合意が実現しました。

基幹産業の鉄鋼業は、資源・エネルギーの大量消費を必要とする生産構造を持ち、日本のCO2排出量の15%、製造業全体の39%(2010年度)を占めます。特に高炉メーカーでは、鉄鉱石の中の酸素を、コークスで還元反応(炭素還元)させ、酸素を除去して銑鉄の製造(高炉法)を行う際に、CO2の大量発生が避けられません。

日本鉄鋼連盟は、96年に「自主行動計画」、09年に「低炭素社会実行計画」を策定し、世界最高水準のエネルギー効率のさらなる向上を図るとともに、「エコプロセス」「エコプロダクト」「エコソリューション」などの取組みを通じて積極的に温暖化対策を推進してきました。

■抜本的なCO2削減対策

しかし、13年度における日本鉄鋼業の粗鋼生産量は1億1152万トン、対05年度比1・1%減少した状況において、CO2排出量が1億9869万トンに達し、対2005年度比3・2%増加しました。これは、リーマンショック後の鉄鋼需要構造の変化や高炉設備の経年劣化に伴い、連続鋳造、CDQ(コークス乾式消火設備)、TRT(高炉炉頂圧発電)や排熱回収などの既存の省エネルギー技術によるCO2排出削減の効果がほぼ限界を迎えていることが影響しているとも考えられます。

08年度から、日本鉄鋼業は世界に先駆け、抜本的なCO2削減対策として、「環境調和型製鉄プロセス技術開発(COURSE50)」を推進し、水素ガスを用いた鉄鉱石還元技術(水素還元)とCO2分離・回収技術により、製鉄プロセスのCO2排出が30%も低減できる低炭素製鉄の実現を目標に、50年までにその実用化と普及を目指しています。

■鍵握る中国

新興国を中心に鉄鋼生産能力が拡大される中、現在中国が世界鉄鋼生産の約5割(粗鋼約8億トン強)を占め、CO2排出量では最大です。一方、中国国有鉄鋼メーカーと地方民営中小ミルとの間に、省エネルギー技術・設備の導入に顕著な格差が存在しており、CO2排出削減のポテンシャルが大きく残されています。今後、中国が国内の過剰鉄鋼生産能力の解消を図ると同時に、日本の革新的な省エネルギー・CO2排出削減技術の移転計画に積極的に参画し、その実用化と普及を実現させることが、地球規模での更なるCO2排出削減の推進には極めて重要と考えています。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=