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2016.8.9

行き過ぎた安売り規制

師俊紀

城西大学経済学部非常勤講師

師俊紀

もろ・としき 48年生まれ。成城大学経済学部卒。成城大学大学院修了。96年から現職。03―14年日本大学法学部非常勤講師。専門は経済法、国際経済法。主な論文に「反トラスト政策における市場支配力について」(成城大学大学院経済学研究科創設20周年記念論文集)など。

■公正かつ自由な競争

酒の行き過ぎた安売りを規制する酒税法などの改正法案が5月末に国会で成立した。行き過ぎた安売りか否かの基準はこれから定められるが、仕入れ価格を下回る価格での酒の販売が規制される見通しという。また、このような過度の安売りをする業者には酒類販売免許取り消しなどの処分が科されることになる。

酒に限らず、採算を度外視した安売りは、独占禁止法により不当廉売として禁止されている。

独占禁止法は、公正かつ自由な競争の促進を目的としている。市場で競争が行われていれば、事業者は工夫を凝らしてより品質のよい商品またはサービス(以下商品)をより安い価格で提供して顧客を獲得しようとする。競争により、よい品質で安い価格(以下良質廉価)の商品が提供されることは消費者の利益となる。独占禁止法は、企業努力により良質廉価な商品を提供することを手段とする競争を助長しようとしている。

このため、事業者が企業努力によるコスト削減を反映した低い価格で販売すること、また、競争相手のこうした低い価格に対抗して、コスト削減を達成するまで、一時的にコストを下回る価格で販売することを問題視するものではない。

しかし、他の事業者が正常な企業努力では対抗できない、採算を度外視した低価格販売は、他の事業者から顧客を奪い、事業活動を続けることを難しくし、結果として市場から退場させる、その市場で新たに事業を始めるのを難しくするなど、競争が妨げられる可能性が大きく、規制の必要がある。

■不当廉売について

独占禁止法は第2条9項3号で、(1)正当な理由がないのに(2)商品の供給に必要な費用を著しく下回る価格で(3)継続して供給し(4)他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものを不当廉売と規定している。

(2)について、公正取引委員会は、商品の仕入れ原価に販売費などを加えた総販売原価を下回り、加えて仕入れ価格、運送費などその商品を販売しなければ生じない費用を回収できないような低い価格を付けることとしている。これは、商品を売れば売るほど損失が増えていくような価格を付けることは、経済的に合理性あるものとは言えないからである。

(4)について、(2)を満たす安売り(廉売)がある程度の期間行われ、その結果売上高が落ち込み、事業活動が困難になる可能性ある事業者が相当数に及ぶ場合と考えられている。単に他の事業者の事業活動が困難になる可能性では、弱小事業者の保護になってしまうからである。

(1)について、消費期限が迫った食品の大幅値引き販売、新規開店のための日数を限った安売り、などは正当な理由があると考えられる。

公正取引委員会は(1)〜(4)を満たす不当廉売と認めると、不当廉売の中止を命じる排除措置命令を行う。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=