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2016.8.25

障害者差別解消するには

渡辺裕子

駿河台大学経済経営学部教授

渡辺裕子

わたなべ・ゆうこ 56年生まれ。東京都立大学大学院(社会学修士)修了後、東北大学にて博士。東京都(神経科学総合研究所派遣)を経て、現職。厚生労働省「大学等に通学する障害者に対する支援モデル事業」検討委員会委員長。専門は福祉政策。主著に『社会福祉における介護時間の研究−タイムスタディ調査の応用−』(東信堂)。

■障害者への世間の関心の低さ

世間の人々が障害者に関心を向けるのはどのような時でしょうか。それはパラリンピックなどで日本人障害者アスリートが素晴らしい活躍をした時でしょう。しかし、残念ながら、感動は時間がたてば薄れていきます。むしろ影響が大きいのは、精神疾患が疑われる者が大きな事件を起こすような時ではないでしょうか。

最近では、7月26日未明に起きた相模原市の障害者施設での殺傷事件は、大きな衝撃を与えました。犯人は精神病院への措置入院歴があったことから、精神障害者は危険だという記憶が人々に蓄積されるかもしれません。私は、ボランティア活動や研究上で、障害のある人と日常的に関わりがありますが、一般の人々が障害者のことを考えたり、正しく理解したりする機会は、少ないでしょう。

■障害者差別解消法における「差別」

4月に、障害者への差別の禁止や配慮を義務付ける「障害者差別解消法」が施行されました。

この法律において差別は、(1)障害を理由にした正当性のない排除や区別(直接差別)(2)外見上は中立的な規定や基準、取り扱いが、障害者に対して不利益や排除をもたらす(おそれがある)こと(間接差別)(3)大きすぎる負担でないにもかかわらず、障害者に配慮(合理的配慮)を行わないこと、と定義されています。

これらの中で、あからさまな直接差別は、官公庁や大企業、学校教育などでは少なくなりつつあるといえます。

しかし、間接差別をなくし、理にかなう配慮を行うことは、そう簡単ではないでしょう。例えば、障害を持つ学生が、「通学や大学キャンパス内での移動は自分の責任で」と言われたとします。この場合、入学拒否(直接差別)はされてはいませんが、母親が付き添いをしなければならないとすれば、環境を整えるという配慮が欠けており、間接的な差別にあたります。

しかし、移動のための人的な配置やバリアフリー環境の整備に相当程度の費用がかかるとすれば、どの範囲まで大学に配慮の義務があるのかについて、考え方には幅が生まれます。実際のところ法律でも、国立大学では義務ですが、私立大学では努力義務とされています。

■感情論よりも説得力のある理論や方法で

障害者スポーツなどで人々に感動を与えることには意義があると思いますが、そのようなやり方で障害のある人への理解を高めることには限界があります。

例えば女性や黒人の場合、社会活動に参加させることが社会に多くの利益をもたらすことが理解されたことで、偏見や差別が解消されてきた面があります。障害者においても同様に、高等教育機関で学ぶ機会の保障や雇用の拡大が、社会的な利益につながるという発想が、差別の解消には必要です。

私たち研究者は、感情論ではなく説得力のある理論や調査の結果を示していくことで、障害者差別の解消に貢献すべきだと考えます。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=