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2016.8.30

新規設備投資は是なのか

稲葉建吾

川口短期大学ビジネス実務学科教授

稲葉建吾

いなば・けんご 69年生まれ。明治大学商学部卒。明治大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得満期退学。岩手県立大学宮古短期大学部講師、准教授を経て2014年から現職。専門は管理会計。おもな著書に『社会化の会計』(共著、創成社)など。

■収益の算定式

いつの時代も企業の生き残りを懸けた競争は激しい。勝算のある市場があるならば新規の設備投資もあり得よう。しかし、現有設備でなんとかしなければならない場合は、どのように考えればよいのであろうか。

管理会計という分野にCVP分析というものがある。そこから若干述べようと思う。それは商品を何個以上売れば利益が出るのかというシミュレーションの方法である。以下、例示を挙げて考え方を見ることとする。

例えば、そば1杯100円で売るとする。そば1杯作るのには麺1玉が必要で1玉60円とする。作るのにはさらに鍋が必要で、1つ5千円とする。そばの代金を収益といい、そばを作るのにかかる麺代と鍋代を費用という。費用には2種類あって、そばの杯数に比例して増加する麺代を変動費といい、そばの杯数に比例しない一定額の鍋代を固定費という。

ここで利益の算定式を作る。収益―費用=利益。費用はここでは変動費と固定費からなるから、収益―(変動費+固定費)=利益と表せる。そばが1杯売れば、100円/杯×1杯―(60円/杯×1杯+5千円)=マイナス4960円、つまり4960円の赤字ということが分かる。

2杯売れば4920円の赤字である。売れれば赤字が小さくなっていき、赤字も黒字も出ない利益0(ゼロ)円のところ、これを損益分岐点という、が現れる。それを、100/杯×X杯―(60円/杯×X杯+5千円円)=0円という式で求めると、X=125杯わかる。この意味は、X=125杯よりも1杯でも多く売れれば利益が出るし、1杯でも少なければ損失が出るということである。

■固定費を小さくすると

ところで、固定費を小さくできればどうなるであろうか。この式によれば損益分岐点のX杯が小さくなる。例えば固定費が5千円から4千円と小さくできればXは125杯から100杯と小さくなる。ということは、固定費を小さくできれば、同じ収益(=売上高)でも利益は多くなるということである。

話を元に戻し、この例示をもう少し一般化しよう。鍋代が固定費となっていたが通常は現有設備の減価償却費が固定費の一部となる。減価償却費とは、単純化していえば、設備購入時の金額をその使用可能年数で除して算定した金額である。

例えば5万円で購入した設備が5年使用できるとすれば、減価償却費は1万円である。使用可能年数が過ぎると、現有資産を継続して使用していても固定費の一部となる減価償却費の計上がなくなる。つまり、固定費の一部がなくなるのであるから、損益分岐点のX杯が小さくなるのである。

この年数が長い場合などは現実的な話ではないかもしれないが、この年数後に現有設備を使用することは、損益分岐点のX杯を小さくすることにつながるので、競争に生き残れる一要因となるのではないか。このような考え方もあるのではなかろうか?

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=