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2016.9.27

「最低限必要なものは」

上枝朱美

東京国際大学経済学部教授

上枝朱美

うえだ・あけみ 国際基督教大学大学院博士後期課程修了。博士(学術)。2003年東京国際大学経済学部准教授、16年より現職。専門は、社会保障の経済学。主な論文は、「(共著)最低限必要な住まいとは」(『社会政策』)。

■寄付運動

東京国際大学のアメリカ校は、オレゴン州の州都セーラムにある。セーラムのスーパーで、ポイントカードを持っている人は、一つ商品を買えばもう一つ同じ商品が無料という表示を見たことがある。フード・ドライブとは、家庭に余っている食品を学校や職場などで集めて福祉施設や福祉団体などに寄付する運動であり、日本でも行っているところがある。

またクリスマスの時期に州会議事堂の中の州知事の部屋に行ったときには、部屋の片隅におもちゃの入った箱があった。州知事の部屋は、ドアが開いていれば中に入ることができる。クリスマスは、アメリカでは買い物の時期である。子どもたちは、普段あまりプレゼントをもらえないが、クリスマスにはたくさんプレゼントをもらう。州知事の部屋にあったのは、おもちゃなどを貧困家庭の子どもに配るトイ・ドライブ用の箱であった。

■二つの貧困

近年、貧困に対して関心が高まっている。2012年の相対的貧困率は、16・1%であった。相対的貧困率は、貧困線を下回る等価可処分所得の者の割合を表している。貧困線は、等価可処分所得の中央値の半分に設定されており、等価可処分所得は、収入から税金や社会保険料などを除いた手取り収入を世帯人数の平方根で割って調整している。

貧困には、絶対的貧困と相対的貧困という二つの考え方がある。絶対的貧困とは、人が生存するのに最低限必要な水準であり、国や時代に関係ない。一方相対的貧困とは、その社会で一般的な生活を送っている人の生活水準と比較しているので変化する。日本の生活保護制度は現在相対的貧困の考え方をとっており、居住地によって生活扶助の額が異なる。埼玉県の場合、最も高い1級地―1は、さいたま市と川口市で、東京国際大学のある川越市は2級地―1である。

相対的貧困の考え方では、最低限必要なものは、同じ時代であっても国によって異なる。日本では電気洗濯機の普及率が高く、賃貸住宅でも各家庭で所有していることが多い。しかし、私が見たアメリカのアパートでは、洗濯機は共同で使用しており、外に洗濯物を干さないので乾燥機も備えてあった。また感謝祭やクリスマスに七面鳥を焼くので、台所には大きなオーブンが備え付けてあった。日本では、大きなオーブンよりも電子レンジを所有している人の方が多いだろう。

■一人一人ができること

現代の日本で一般的な生活を送る上で最低限必要なものは何だろうか。スマートフォンやタブレットなどの情報機器が急速に普及し、仕事や友人との連絡に利用している人も多いだろう。また冠婚葬祭に参加するためには、衣服やバック、靴なども専用のものが必要となる。最低限必要なものを具体的に考えていくとたくさんあることに気づかされる。

格差が拡大しているといわれているが、政府による社会保障、企業やNPOによる活動が行われている。自分ができることは何か、一人一人が考えることも重要だと思う。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=