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2016.10.27

厚生年金適用拡大の影響

前田悦子

駿河台大学経済経営学部准教授

前田悦子

まえだ・えつこ 千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程単位取得満期退学。02年駿河台大学経済学部専任講師、08年から現職。専門は公共経済学。

■範囲の拡大

10月からパート労働者などの短時間労働者に対する厚生年金の適用範囲が拡大された。これまでは週30時間以上働く労働者が厚生年金の加入対象であったが、(1)週20時間以上の勤務(2)月額賃金8・8万円以上(年収106万円以上)(3)勤務期間1年以上の見込み(4)学生は適用除外(5)従業員が501人以上の企業の五つの要件を全て満たす労働者へと適用が拡大された。厚生労働省によれば、新たに約25万人が厚生年金に加入することになる見通しである。

新たな対象者のうち、第1号被保険者は厚生年金への加入のメリットが大きい。平成28年度の国民年金保険料は月額1万6260円であるが、厚生年金に加入すれば保険料は労使折半となるため、月収8・8万円のケースでは自己負担となる保険料は月額8千円で済む。保険料負担は少なくなるにもかかわらず、将来の年金は基礎年金(国民年金)に厚生年金が加わるため増額になり、手厚い保障を受けることが可能になる。

■新たな「106万円の壁」

第3号被保険者の場合はどうだろうか。会社員や公務員の妻で年収が130万円未満のケースでは、第3号被保険者として保険料を納めずに基礎年金(国民年金)を受給することが可能なため、「130万円の壁」を超えないように就業調整をしている人も少なくない。適用拡大の対象者は、将来の年金額は厚生年金分が増額となり、事故や病気などで障害者になった場合にも障害基礎年金に加えて障害厚生年金がもらえるというメリットはある。

しかし、これまで負担せずに済んだ保険料負担が生じ、手取りの収入も減少することから、「損をする」と思う人の方が多いのではないだろうか。新たに「106万円の壁」が出現することになり、対象者は月収が8・8万円を超えないような働き方に変えようと考えてもおかしくない。

該当する企業にとっても負担は大きい。パート労働者が厚生年金に加入しなくても良い範囲まで労働時間を減らす行動に出れば、企業は保険料負担をせずに済むかもしれないが、その分、新たなパート労働者を採用する必要がある。慢性的な人手不足が続いている流通サービス業などでは、さらに人手不足が深刻化する恐れもあるだろう。

■中立的な制度へ

就業調整は年金制度が女性の労働供給を阻害していることになり、望ましいことではない。また、「正社員として働ける会社がなかったから」と仕方なく非正規雇用で働く人も増加しており、世帯の主たる稼ぎ手が厚生年金の適用条件を満たさない働き方をしている場合は低年金になるという問題もある。

今回の適用拡大の対象は約25万人であるが、従業員が500人以下の企業にも拡
大されれば新たに約50万人が加入対象になるとされている。就業形態の多様化に対応した中立的な制度とするためにも、短時間労働者への厚生年金適用をさらに拡大していくべきではないだろうか。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=