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2016.11.8

金融政策に新たな流れ

上坂卓郎

獨協大学経済学部教授

上坂卓郎

かみさか・たくろう 54年生まれ。東北大学経済学部卒、千葉大学大学院博士後期課程修了、博士(経済学)。専門はベンチャー企業、中小企業金融論。金融機関勤務を経て03年から現職。主な著書「ベンチャー企業論入門」(中央経済社)、「日本の起業家精神」(文眞堂)。

■大きな軌道修正

日本銀行のマイナス金利政策が1月に発動されて半年強が経ったが、9月に大きな軌道修正が行われた。日本銀行は短期金融市場だけでなく、長期金利(その根幹の金利はいうまでもなく国債の金利であり国債価格のこと)も誘導できる、つまりコントロール可能であり、それをゼロ%程度にしていくという見直しを行った。

つまりマイナス金利政策のプラス効果はみられるものの限定的であり、むしろイールドカーブ(金利の期間構造を示す利回り曲線)がフラットになることで金融機関経営に対するマイナスの影響の方が大きいことへの対応を行った。景気対策も重要だが、預貸金利鞘が減少するという金融機関の経営、金融システムへの配慮もしなければならず、金融政策は難しい袋小路に入り込んできた。

■ベンチャー投資に前向き

一連の異次元の金融政策により、金融機関の行動は今後どのようになるのだろうか。その動きの一つとして大手金融機関ではベンチャー投資に前向きに動き出しているようだ。超低金利となったため本業での利ざやが縮小し金融機関は融資ではもうからなくなっている。利回りからみると融資と投資の垣根が小さくなり、リスクはあるが成長が見込めるベンチャー投資に本格的に踏み込める環境に変わってきている。従来品ぞろえの一つでしかなかったベンチャー投資の役割が高まりつつある。

またIoT、AI、フィンテックなど新産業の芽が次々と出てきており、投資対象も拡大している。金融機関がこのような経済の新しい流れ、イノベーションをビジネスとして取り込むには融資ではなく投資形態が求められている。

■大企業も触手

一方、大企業自身も最近ベンチャー投資に触手を伸ばす(コーポレイトベンチャーキャピタルという)ことが盛んになっている。また新技術を持つベンチャー企業を買収して成長の起爆剤にしようという大企業はさらに多い。豊かな企業の内部蓄積を使い外部成長を目指す動きが活発になってきたようにみえる。このように最近のベンチャー投資は、投資からのリターンだけを追求する純投資ではなく、本業とのシナジー効果を求める政策投資の色彩がより強くなってきている。

ベンチャーエンタープライズセンターの10月発表の白書によると、2015年度の日本のベンチャーキャピタル等によるベンチャー企業への投資金額は、1302億円と前年比で11・2%増加した。経済に貯まった資金がわずかずつだが、ベンチャー企業へ向けてにじみ出してきている。

■復活の兆し

1970年代半ばまでの資金不足経済では金融機関がリスクマネーを供給し、今日の大企業を育ててきた。資金余剰経済となりその機能が衰微していたが、ここにきてマイナス金利に後押しされ復活の兆しが出てきたことはわが国の成長政策として心強い。経済成長のためには金融機関が企業の長期的な成長期待へコミットしていくことが求められる。

今後、お金の流れがベンチャー企業に向かい、それが実物投資につながっていくのか、ただ国債に対するバブル的投資に止まるのか注目してみていく必要がありそうだ。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=