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2016.11.24

オリンピックと経済

野田裕康

駿河台大学経済経営学部教授

野田裕康

のだ・ひろやす 1960年生まれ。日本大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(経済学)。住宅都市工学研究所を経て2006年より助教授、08年から現職。専門は財政学・租税論。主要論文は「ドイツ不動産税課税標準の分析」『駿河台経済論集』など。

■総費用の負担

2020年の東京オリンピックに向けて、これまで以上にスポーツの果たす経済的役割が大きくなった。一度目の景気インパクトが強かっただけに、二度目の開催に向けて政府も有形無形のプレッシャーを意識している。

16年度スポーツ庁の関連予算は324億円(前年比11・7%増)だが、3兆円超と予想される五輪総費用の負担は、競技場問題も含め賛否両論が今後も続くであろう。また、競技力(メダル数)にこだわる成果主義は、国民の多様なスポーツ立国という経済市場を限定することにもなるため、一部のトップアスリートによる商業効果と、国民負担の両面を配慮する必要がある。

例えばドイツでも、オリンピック選手の育成には予算と時間がかかり、栄誉を手にするのは一部(約5%)であるという。我が国も事情は同じである。一度目に比べて種目数は倍近くなったとはいえ、国はメダルの追求(強化費増加)だけでなく、一般国民のスポーツ普及へとつなげる公的支援が、健康増進・医療費削減目標から求められよう。

■ドイツでのアンケート

ドイツ連邦内務省とスポーツ科学研究所のアンケートで、国民の半分以上(55・5%)がスポーツに参加しており、約3割(29・7%)が大会参加・有料TV・スポーツ賭博などにお金を出しているという結果がある。

この調査は、71種類に及ぶスポーツのヒアリングの結果であるが、参加頻度ではサイクリング、ジョギング、水泳などが上位にランキングしている。14年第13次連邦スポーツ報告書でも、スポーツ人口の約3分の2(67%)が、一人で活動をしているという。

このことはコスト面からも容易に推測できるが、他方で、一人でできないサッカーのクラブ組織率は5割(55・2%)を超え、16歳未満のスポーツに占めるサッカーのシェアは2割(20・4%)を超えている。ドイツ全国民の約3分の1(34%)が、何らかのスポーツクラブ(DOSB)に所属している点を考えると、彼らは見るスポーツとやるスポーツを相互に刺激させているのだろう。

■永続的なスポーツ振興策

我が国のスポーツ基本法の理念は、競技水準向上、国際及び地域交流、健康増進であり、スポーツによる経済効果を直接に期待するものではない。20年の過剰な特需意識は、その後の景気減速までも過大に評価される不安が残る。一度目の祭りの後(昭和40年不況)は、財政出動が特効薬となったが、今の日本ではその薬も耐性ができてしまっており、負担の転嫁も限界にあるだろう。

20年という年は、教育(高等教育の改革)、雇用(団塊ジュニア世代の高齢化)、不動産(住宅市場の激変)、福祉(介護需要の激増)など、日本経済の新たな節目とされつつある。生産人口の減少と景気後退は、いわば健康人口の上昇による生産拡大により期待できるかもしれない。一過性のブームに頼るのではなく、永続的なスポーツ振興政策により、実年齢ではなく健康力が尊重される時代になってほしい。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=