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2016.12.6

地域経済と東南アジア

高安健一

独協大学経済学部教授

高安健一

たかやす・けんいち 59年生まれ。上智大学大学院国際関係論専攻博士後期課程修了。博士(国際関係論)。日本総合研究所調査部などを経て、09年4月より現職。専門は開発経済学、東南アジア経済論。主な著書に『アジア金融再生〜危機克服の戦略と戦術〜』など。

■活力をいかに取り込むか

いかにして東南アジア経済の活力を地域経済に取り込むのか。我が国政府のみならず地方自治体にとっても、避けては通れない課題である。それを実現するための手段の一つが、外国直接投資であり、生産拠点の設立、現地市場の開拓、日本や第3国への輸出などが行われる。

わが国の東南アジア向け直接投資は高水準を維持している。2009年以降は中国向けを一貫して上回っており、15年には東南アジア向けが202億ドル、中国向けが89億ドルと2倍以上の金額差が生じた。加えて、近年、進出動機に変化が見られる。円高への対応や取引先の要請を受けた中堅・中小企業の進出は一段落した模様である。代わって、国内需要の減退と現地市場の拡大が注目されている。

■県内企業へ三つの指摘

県内企業が東南アジア経済の活力を取り込むために意識すべき事項を、三つ指摘したい。第1は、自動車関連等の大手企業を中心に、自由貿易協定(FTA)や15年末に完成したアセアン経済共同体(AEC)のメリットを十分に享受すべく、国際分業を進化させることである。東南アジアの拠点から、域内諸国、中国、日本をはじめ世界の多くの国々と極めて低い関税率で貿易取引ができる。

第2は、非製造業の進出である。15年の我が国の東南アジア向け直接投資の35%は卸売・小売業などで構成される非製造業であった。現地での競争は厳しいものの、日系百貨店も積極的に市場を開拓している。県内の非製造業企業も東南アジアに橋頭堡(ほ)を築いてもよいのではないか。現地で人々の消費動向やライフスタイルなどをつかみ、県内への外国人観光客の来訪につなげるルートとしても期待できる。

第3は、県内の伝統工芸品の東南アジアへのアピールである。埼玉県は、20産地の30品目を伝統的手工芸品に指定している。それらに新しい機能を加えて東南アジアで売り出す工夫をしてはどうか。筆者のゼミの学生が、インドネシアで蚊を媒介した感染症の被害を目の当たりにした経験から、東秩父村の細川紙(和紙)と虫よけ効果のあるハイテクの布を組み合わせたトートバックを制作した。若者のアイデアと埼玉県の伝統工芸品の合作である。

■自社の競争力を写す鏡

東南アジアへの直接投資が成功を収めるには、海外事業を任せられる人材の育成、信頼できる現地パートナーの発掘、販路の拡大をはじめ、対処しなければならない課題は多い。

にもかかわらず、対外直接投資に挑戦する意義として、東南アジアの人々から自社の技術なり製品を評価してもらうことが挙げられる。自社では気付かなかった技術の活用方法や価値を発見し、業績改善につなげられる可能性がある。

対外直接投資は、必ずしも産業の空洞化を意味するものではない。海外の需要を上手に取り込めば、国内の生産や雇用の増加につながることもあり得るのである。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=