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2016.12.8

スピリチュアル思想と絵本

三浦正雄

埼玉学園大学人間学部子ども発達学科教授

三浦正雄

みうら・まさお 早稲田大学教育学部卒業。青山学院大学文学研究科博士後期課程満期退学。文学修士。川口短期大学助教授などを経て、2011年から現職。専門は日本近代児童文学、日本近代文学、国語教育。主な著書に編著『怪談』(講談社)など。『読まれなかった明治』(双文社出版)などに論文を掲載。

■現在も静かなブーム

美輪明宏・江原啓之両氏の「オーラの泉」や細木数子氏の「ズバリ言うわよ!」などのテレビ番組がヒットし、「すぴコン」が注目を集め、人々がパワースポットを目指した2007年前後の華やかさはなくなったものの、現在もスピリチュアルブームは静かに続いている。

時代が変わっても、運命・死後の世界・霊魂など人々の霊性への関心はなくならない。パワースポット人気は衰えることなく、雑誌や携帯・パソコンサイトには占星術が必須であり、「すぴコン」は「スピリチュアルマーケット」へと規模拡大している。山川夫妻の訳書をはじめスピリチュアル系書籍は一定の読者層を保持し、雑誌の廃刊が相次ぐ中でスピリチュアル・オカルト・占い雑誌は一定の売れ行きを保ち、関連のウェブサイトやイベントも人気を得ている。

■絵本に影響

アカデミズムにおいても、福祉を中心にスピリチュアルな観点の研究が発表され、分野を越境し始めている。福祉、医療、教育、環境、芸術など諸領域にまたがる鎌田東二氏編『講座スピリチュアル学』刊行や、島薗進氏を所長とする上智大学グリーフケア研究所創設など、高齢化社会における死生学の展開ともあいまって、スピリチュアル思想は学術の世界にも徐々に根を下ろしつつある。

また、スピリチュアル思想は、芸術、その一つである絵本にも影響を与えている。スピリチュアル思想と絵本は相性が良い。

翻訳ものとしては、『おおきな木』『葉っぱのフレディ』など生と死や生命の循環を描いて息長く、現在ではハワイの祈りの言葉を扱った『ホ・オポノポノ』などがある。日本でも葉祥明氏をはじめ、スピリチュアル絵本は多くの作品を輩出し、独自の人気を得ている。

同氏は、熊本県出身で鎌倉在住のベストセラー絵本作家である。作品は平和、エコロジー、自然との共生、人生の洞察がテーマであり、哲学的な次元に到達している。『キツネのフーくんと風の郵便屋さん』など現在も創作を続ける一方、旧作も変わらぬ人気を保っている。

イルカが人間にその本質を問い直す『イルカの星』、早世した子どもが語る生と死の世界を描いた『ひかりの世界』など多くの絵本が版を重ねている。淡彩で優美な絵に魅せられて、鎌倉明月院近くにある葉祥明美術館を訪れる人々は多い。

■鍵を握る分野

世界が政治・経済・社会構造・文化において、ひいては人類の活動全てにおいて行き詰まっている状況は、欧米発の合理主義、功利主義、物質科学等に一因があることはしばしば指摘されてきた。

一方、過去から継承された英知は玉石混交の慣習の中に埋もれているため、近現代において軽視されることも多かった。スピリチュアル思想は、継承された英知を発掘し現代に適したアレンジを施しており、行き詰まりを感じている多くの人々をひきつける。

スピリチュアル芸術、中でも絵本は、老若男女あらゆる層の人々をひきつける。今後の未来の展望においても、文化の創造においても、鍵を握る分野といっても過言ではないだろう。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=