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2017.1.12

実は奥が深い「売上高」

大塚浩記

埼玉学園大学経済経営学部教授

村上純子

おおつか・ひろのり 1967年生。立命館大学経営学部卒。明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(経営学)。14年4月から現職。専門は財務会計。主な著書に『財務会計の現状と展望』(共著・白桃書房)など。

 ■投資回収の規模

 「年商△億円の会社」といった紹介を目にすることがある。どのような印象をもたれるだろう。企業は資金を調達し、その資金を投資して、回収するという経済活動を行っている。年商とは、1年間の回収額であり、1年間の売上高を意味している。

 上記のような紹介は、どれくらいの規模の経済活動を行っているかを表すために使われる。おおよそ、われわれの年収とは懸け離れた金額の場合が多いので、スゴイと思わせる効果があるのだろう。

 ただし、売上高は回収額であるので、それを得るために費やした投資額がいくらかによって、利益額は異なる。年商が同じだからといって、必ずしも同じ金額の利益を得ているわけではないことには注意が必要かもしれない。

 ■重要性

 さて売上高(あるいは営業収益)は、損益計算書という決算書の最初に記載される。損益は、そこから売上高を獲得するために費やした投資額(原価や販売費および一般管理費など)を差し引いて算出される。損益計算の出発点という意味でも、売上高は重要である。

 架空売上高の計上は、代表的な粉飾決算(不正会計)の一つであるが、いまだに紙面をにぎわすことがある。われわれが商品を購入し、代金を支払うような対面販売では、不正をイメージしにくい。しかし、売上伝票1枚で売上高を計上できるとなると、とたんに怪しくなる。販売先、販売日や販売金額などいろいろと記入したくなるのだろう。

 ■多様性

 このような不正は別としても、商品等の販売形態は、実に多様である。多くの場合、取引意思がある者の間で、商品等を引き渡し、現金や債権などを得ることで販売が完了したとみなし、売上高を計上することになっている。従来から、委託販売、試用販売、予約販売や割賦販売などについては、会計原則で上記の販売時点が明確されている。

 しかし、わが国に限らず、独特の取引慣習というのはどこの国にもあるのだろう。2014年に売上高などの収益の計上に関する国際会計基準が公表された。売上高などの計上時点や金額が国際的に比較しにくいものだったからだ。例えば、日本たばこ産業(JT)の「第27期有価証券報告書」の連結経営指標等をみると、日本基準における11年3月と12年3月の売上高の金額がそれまでの半分以下になっている。これはたばこ税がJTの売上高に含まれるか否かが問われた結果である。

 我が国の会計基準設定機関である企業会計基準員会は現在、高品質かつ国際的な整合性を持つ日本の会計基準を設定する観点から、これに対応する会計基準を開発中である。「売上高」といえば分かりやすそうな指標だが、実は奥が深いのである。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=