埼玉新聞ロゴ

2017.2.9

トランプ大統領と変動相場制

奧山忠信

埼玉学園大学経済経営学部教授

奧山忠信

おくやま・ただのぶ 50年生まれ。東北大学経済学部卒。経済学博士(東北大学)埼玉大学経済学部教授、上武大学学長を経て現在。著書『貧困と格差―ピケティとマルクスの対話』(社会評論社、2016)『貨幣理論の現代的課題―国際通貨の現状と展望』(社会評論社、2013)など。

■経済的保護主義

 1月、アメリカにドナルド・トランプ大統領が就任した。選挙期間中、人種や性に関する差別的な発言を繰り返して悪役を演じ続けてメディアへの露出度を高めての当選だった。先進国の中で唯一経済が安定していると言われるアメリカですら、国民の不満は深刻だったのである。

 イギリスのEU離脱の国民投票が2016年6月、そして11月にはアメリカ大統領選挙でのトランプ氏の勝利が続く。共通するのは経済的な保護主義であり、死語を使えば「国粋」主義である。

 イギリスのEU離脱の国民投票は、EU離脱賛成が52%、残留が48%であった。メディアは、僅差でありイギリス国民は一時的な感情で投票してこの結果に困惑している、と報じた。しかし、一般的に言えば4%の差は僅差ではない。何かの間違いでもない。これに対し、トランプ氏の勝利は僅差である。得票数ではヒラリー・クリントン氏が勝ったが、アメリカ独特の選挙人制度のおかげでトランプ氏が勝ったのである。

 フランスをはじめヨーロッパには、「極右」勢力が急激に増加している。共通に移民の受け入れに反対し、ユーロからの離脱を唱える。トランプ大統領のアメリカ第一主義も、この流れにある。トランプ氏がアメリカの労働者を守ると言う時には、国際協調は二の次であることを意味する。

 ■円安に頼る景気回復

 トランプ大統領は、選挙期間中から日本と中国を批判してきた。アベノミクスによる円安誘導と中国の元安の通貨管理が、アメリカの産業を疲弊させているというのである。 変動相場制は、ニクソン・ショック(1972年8月)によって採用される。変動相場制は、理論的には為替レートを完全に市場に任せ、政府は介入しない。従って、外貨準備の不要な制度であり、国際通貨としての金に依存する必要もなく、為替レートの混乱は先物市場を完備することを回避できる制度と言われていた。

 しかし、日々変動する為替レートの中で、企業は安定した経営を行うことはできない。72年12月には、スミソニアン協定が結ばれ、固定相場制が復活する。変動相場制は一時しのぎであり、現実的な制度ではないと考えられていたのである。固定相場制が維持できなくなって変動相場制に移行するのは、中東情勢が混乱する73年である。

 変動相場制移行後、日本は2度の長期の円高に苦しむ。85年から95年の間、円は3倍になる。すさまじい円の切り上げである。また2000年に入ってからは、長期の不況の中での円高に苦しんできた。

 変動相場制は、黒字国に通貨高の罰を与える制度である。輸出が増えた国は黒字が増え、結果として通貨が高くなって輸出が減る。輸出の増加が、努力の結果としての生産性の向上や品質の向上であった場合は、努力した国がばかを見る制度である。

 年末から続くトランプ効果の円安は、労せずして日本の輸出企業に恩恵をもたらす。しかし、世界の流れは、国際協調を否定した自国第一主義である。トランプ大統領の影響はリスクの方が大きいと考えた方が良い。円安に頼る景気回復は、あまりにも虚しい。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=