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2017.3.14

褒めるマネジメント

山本重人

川口短期大学ビジネス実務学科準教授

山本重人

やまもと・しげと 滋賀大学経済学部卒。立命館大学大学院経営学研究科企業経営専攻博士課程後期課程修了。博士(経営学)。川口短期大学専任講師などを経て2015年4月から現職。専門は経営組織論、コンテンツビジネス。主な著書に『組織能力と企業経営』(共著、晃洋書房)など。

 企業経営において、組織内の個人の労働意欲を引き出すことは重要なことである。1990年あたりから導入された成果主義は、賃金によって個人の労働意欲を引き出そうとしたが、失敗に終わった。そこで近年注目されているのが、個人の「認められたい・尊敬されたい」という「承認欲求」を「褒める」ことで満足させ、仕事への意欲を引き出す「褒めるマネジメント」である。

 承認欲求が、個人の動機づけにどれだけの力を持つかについては、太田肇先生の一連の著作で学術的に実証されている。現場において、「褒める」・「褒められる」の関係で想定されるのは上司と部下の関係である。

 ■上司は褒めますか?

 日本生産性本部の「職場のコミュニケーションに関する意識調査」(2014)によると、「部下を褒めることは育成につながる」と回答した課長は、98・1%に上っている。そして、「部下を褒めますか?」との問いに対しては、「褒めている」と回答した課長は78・4%に上っている。一方、「上司はあなたを褒めますか?」との問いに対し、「褒める方だ」と回答した一般社員は48・6%に留まっている。

 調査は、課長の「褒めている」実感と、一般社員の「褒められている」実感には、大きな隔たりがあると結論している。今日では褒められたいと考えている人が多い一方で、上手く褒めている人が少ないという状況なのである。

 ここで重要なことは、上司は「自分のことをよく見てくれている・自分のことを認めてくれている」と部下が実感することであり、その実感が部下の承認欲求を満たすことになる。今以上に個人の承認欲求を満たしていけば、個人の意欲をより引き出すことが可能となり、企業業績の向上につながることとなる。そして、その実践手法としては、個人の力量に任せるのでは
なく、組織を挙げて制度として取り組むことが重要である。

 ■「褒めあいカード」

 例えば、伊勢丹のクレジットカード事業を手がけるエムアイカードは、従業員同士で褒め合う「褒めあいかーど」という制度を導入している。「従業員が同僚の接客で見習いたい点を専用カードに書きとめ、その同僚に手渡す。各従業員は1カ月に1枚以上、マネジャー級は10枚以上を手渡すことを目標にしている」のだという。

 同制度の注目すべき点は、接客をする上で、見習いたい点を言語化している点である。褒めるためには、「相手の良いところを見つけるために、相手をよく見ないといけない」のであり、そのことは、「相手の良いところを見つけ、そしてそれを学習できる機会を得る」ということである。仲間の接客の様子を見ることが、自身のスキルアップにつながっている。相互にほめ合うことは、全員の接客スキルを向上させ、職場の人間関係・雰囲気を良くし、離職を防ぐことにもつながる。

 褒め合いとは、互いを肯定し認め合うことである。仕事の成果に対して、金銭的な報酬やポストでの処遇は難しい昨今、企業は褒めるマネジメントを積極的に導入すべきではないか。

=埼玉新聞経済面 県内大学発「経世済民」=