【わが師円楽 三遊亭楽生#6】師匠円楽は気遣いの鬼 先代円歌に冷えたビール
師匠の六代目三遊亭円楽は「見て覚えろ」とよく言っていた。(9回続きの第6回)
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師匠は気遣いの鬼でした。特に気難しいと言われる師匠にすごくハマっていました。大師匠の五代目円楽はもとより、立川談志師匠、先代の三遊亭円歌師匠、桂歌丸師匠…。ワタクシにとりましては雲の上の上。口をきくことすらできません。
2010年、師匠の襲名興行で秋田に行った時のことです。康楽館という大変に風情のある建物。ご一緒した円歌師匠が高座を下りて、師匠が上がります。ワタクシは師匠から密命を受けておりました。円歌師匠にはお茶ではなくビールをグラスに注ぎなさい。
ビールもグラスも師匠が冷やしておいてくれた物。着替えが終わった円歌師匠にビールを注ぐと「これはあなたのいち了見かい?」。全てお見通しでした。「いえ、師匠から言われました」
円歌師匠は「そうだよね」とニコッと笑って、あなたの師匠がいかに気が利くか、そしてワタクシの高座のことまでお話を頂きました。
一門の方から、楽屋でニコニコお話しになる円歌師匠は珍しいと伺いました。師匠が高座から下りてきてあいさつすると、円歌師匠は「ごちそうさま!」。気遣いの神髄に触れた瞬間です。
歌丸師匠ともよくご一緒しました。ある時の高座。歌丸師匠は高座脇の椅子に座って扇子を開いたり閉じたり。パチン、パチンと音がした。師匠が高座から下りてきて「師匠、扇子の音が客席にまで聞こえてました」。
ええ!? 上に意見するなんてご法度の世界。歌丸師匠は「おお、すまなかったね」。ええ!? 師匠も師匠ですが、歌丸師匠がそんなことをおっしゃるなんて。ただ、なんでしょう、お二人の強い絆を感じた瞬間です。
師匠に付いているとドキッとする光景を見せてくださる瞬間がある。「見て覚えろ」の言葉通り、しっかり目に焼き付けました。
【さんゆうてい・らくしょう】1977年さいたま市生まれ。97年三遊亭楽太郎(後の六代目円楽)に入門し、楽花生を名乗る。2008年楽生と改め真打ちに昇進。毎月1回、人形町・日本橋社会教育会館で独演会を開催している。ラジオ日本「SWEET!! Friday Edition」(金曜午前9時~)に出演中。