埼玉新聞

 

<熊谷6人殺害>なぜこんなに被告は元気なんだ…妻子殺害された男性が怒り 被告側は無罪主張「理不尽だ」

  • 閉廷後、報道陣の取材に応じる遺族の男性=10日午後4時半ごろ、東京都千代田区

 熊谷市で2015年9月、小学生を含む男女6人が殺害された事件で、強盗殺人などの罪に問われ、一審さいたま地裁判決で死刑判決を言い渡されたペルー人のナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(34)の控訴審第3回公判が10日、東京高裁(大熊一之裁判長)で開かれた。弁護側は統合失調症の影響で心神喪失だったとして改めて無罪を主張。検察側は弁護側の一審判決を事実誤認とする主張などを否定し、控訴棄却を求め、結審した。

 灰色のトレーナー姿で出廷したナカダ被告は周りを3人の刑務官に囲まれて着席。開廷前は独り言を話していたが、開廷後は不規則発言もなく、うつむいたり目を閉じたりしていた。

 公判では妻と2人の娘を亡くした男性(46)が意見を陳述。「控訴審での被告は、言葉数も多く、『なぜこんなに元気なんだ』とむなしさと怒りが込み上げた。妻と娘は生き返らないのに、これほどの理不尽はない」と憤りを示し、「私の望みはただ一つ、被告人が死刑になることです」とはっきりとした口調で述べた。

 弁護側は弁論で、「被告は実効的なコミュニケーションを取ることができず、利害を弁別し自身を防御することもできない」と被告の訴訟能力を否定。責任能力についても「各犯行に統合失調症の妄想が大きく関係している」とした上で、「ただちに無罪を言い渡すか、公判手続きを停止するべき」と主張した。

 検察側は、一審判決に事実誤認があるなどとする弁護側の主張を否定。「事実誤認はなく正当。弁護側の主張はいずれも失当である」として、完全責任能力を認めた一審死刑判決の維持を求めた。

■家族の最期を知れず

 「死刑判決を得るために歯を食いしばって出廷した第一審から1年半。今、当時とは違ったつらい日々を送っています」。事件で妻子を奪われた男性は、控訴審の法廷で現在の生活や亡くなった妻子への思いを語った。

 男性は事件で、妻加藤美和子さん(41)、長女美咲さん(10)、次女春花さん(7)=年齢はいずれも当時=を亡くし、被害者参加制度を利用して第一審から公判に参加。「妻や娘が最後に何か言っていたか、どんな様子だったかを知りたい」と控訴審にも参加したが、被告に直接質問することはかなわなかった。

 男性は閉廷後、報道陣の取材に、「控訴審での被告人質問では、自分が裁判を受けているということを分かっているようだった。今のタイミングで被告に質問したかった」と心残りを口にした。

 事件から4年。「一審より被告への憎しみは強く、死刑以外は考えられない。できる限りのことはやったので、あとは判決を待ちたい」と話した。

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