“表現者”集う場所に 漬物店でフォークライブ ギャラリーカフェ「ひと福庵」オープン10年、さいたま市北区
さいたま市北区のギャラリーカフェ「ひと福庵」で、地元の人気シニアバンド「コーヒーブレイク」がライブコンサートを行った。同ギャラリーは創業200年超えの老舗漬物店河村屋(同区)が「アートによる文化交流の場を」と隣接する旧店舗を使い、2014年にオープン。今年、10年目を迎えた。気軽に音楽や美術などが楽しめる場として喜ばれ、この日も約40人の観客が味わい深い楽器の音色と歌声に酔いしれた。
旧中山道沿いに立つ河村屋は江戸後期創業。近年は新しい食材を使った創作漬物でも人気を集める。「昔からアートが大好きなんですよ」とほほ笑むのは、同店10代目当主の染谷静香さん(46)。イタリアでの留学生活を経て家業を担う中、「ジャンルを問わず地域のアーティストが集い、文化交流につながる場」への構想が膨らんだと話す。
物置にしていた旧店舗を片付け、内外部を手直し。趣ある外観と艶を帯びた梁(はり)が目を引くギャラリーに生まれ変わった。店名に込めた思いは「『一日一福』のお手伝いができたら」。当初は期間限定だった「つけものカフェ」が評判を呼び、21年からは年間を通して味わえる。和洋のメニューに漬物と地場野菜を生かしたランチは、伝統と新しさが共存するおいしさだ。
ライブを行った結成24年の「コーヒーブレイク」は、メンバー全員が“還暦越え”の地元バンド。リーダーを務める前島英男さん(70)は「公共施設の会場はどこも抽選。なかなか当たらなくて」と明かし「天井が高く、音響もいい。すてきな空間に感謝ですね」。懐かしいフォークソングやアイリッシュ、カントリーなど幅広いジャンルの名曲を、プロ顔負けの演奏で表現力豊かに歌い上げ、詰めかけた観客らを魅了した。
市内に住む牛田まさみさん(64)は「会場、演奏ともに温かな雰囲気だった。自分と同世代なので選曲もぴったり。とても幸せな時間でした」と満足の表情。家が近所だという女屋(おなや)文治さん(73)は「歌はもちろんトークも楽しかった。近くにこのようなギャラリーがあってうれしい」。
染谷さんは「これからも“表現者”が集う場所でありたい」と、新たな企画に力を注いでいる。