埼玉新聞

 

「殺してでも金借りろ」と母から迫られ、祖父母を殺害した少年…寄り添ったひとりの歌手 義父からも虐待が

  • 「存在証明」などの曲を披露する松井亮太さん=11日、さいたま市中央区のブリランテ武蔵野

 生命保険会社の営業職員による団体「生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会(JAIFA)」は、児童虐待の理解を深めるオンラインセミナーを開催した。2014年に川口市で祖父母を殺害し現金などを奪い、服役中の当時17歳の元少年が作った詩をもとにした曲や、元少年から届いた手紙が紹介された。作曲した歌手の松井亮太さんは「少年のために動く大人がいて、大切な人が周りにいることが(元少年に)届いてほしい」と話した。

 事件は小学4年から学校に通えず居所不明児だった元少年が、祖父母を殺害し金品を奪い、懲役15年の判決を受けた。元少年は母親と義父から虐待を受けており、母親に「殺してでも金を借りてこい」と迫られていたとされる。歌詞になった詩のタイトルは「存在証明」で、松井さんが曲をつけて昨年7月に完成した。

 「誰かに言葉をかけられるほど 私は人間出来てないんです 人には言えない罪も抱えています」と始まる歌詞は、「でもね、そんなことが理由で 君に言葉をかけてくれる誰かになれないというのなら 今だけは全て捨てます」「ほんのわずかでも 君が少しでも 私を望んでくれるのなら 笑って ありがとうと 言ってくれるのなら」と続く。

 セミナーでは事件を取材し著書「誰もボクを見ていない」にまとめた元毎日新聞記者の山寺香さん、さいたま市中央区で子ども食堂「みな風こども食堂」を運営する山田ちづこさん、ファイナンシャルプランニング技能士の服部孝さんと松井さんの4人によるトークセッションが行われた。

 松井さんは楽曲制作について、元少年と半年にわたり手紙で10通以上打ち合わせを行ったとし、「大変だったけど、少年の思いが抜けずに作れてよかった」と話した。元少年は曲を聴いておらず、手紙で感想にも触れ「とてもうれしかった」と思いを明かした。

 服部さんによる「児童虐待を知る―子どもたちの可能性につなげるために私たちの可能性に気づく」と題した講演も行われ、虐待の種別や虐待が子どもに与える影響などについて解説した。

 曲のCDは通販などで購入できる。

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