埼玉新聞

 

病気なんだ…ある場面で、急に声出せない症状 じつは「場面緘黙(かんもく)症」 経験した映画監督の思い

  • 「声にならない痛みを抱える多くの方に作品を見てもらいたい」と話す田中大志監督(左)と有泉汐織さん=17日、さいたま市内

 学校や職場など特定の場面で声が出なくなる「場面緘黙(かんもく)症」をテーマにした短編映画「そのこえ」(40分)が22日、川口市のSKIPシティで上映される。企画、監督、脚本を手がけたのは大阪府在住の田中大志さん(27)。「声にならない痛みを抱える多くの人に見てほしい」と話している。

 物語は、就労継続支援事業所を舞台に、場面緘黙症を抱える主人公の青年が、女性ダンサーとの出会いを通じて自身の殻を破ろうとする姿を描く。俳優やモデルとして活動する亮介さんが主人公の青年を演じ、川口市在住でダンサーとして活動する有泉汐織さん(27)が、ヒロインのダンサー役を務めた。

 田中さんは19歳の時にイスラエルに留学し、語学や映画制作を学んだ。現地の芸術大在学中に制作した短編映画「ガリラヤの漁師」が、2019年ハイファ国際映画祭学生部門で銀賞を受賞。20年に帰国し、今作が日本での初監督作品となった。

 作品で場面緘黙症を取り上げたのは、田中さん自身の経験がきっかけだという。留学当初、言語の壁を感じて話すことが怖くなり、外に出ると声が出なくなってしまった時期があった。「あの経験は何だったのだろうと、長年思いを抱いていた」という。

 帰国後、インターネットで場面緘黙症について知り、当事者への取材を重ねるなどして理解を深めた。「場面緘黙症があまり認知されておらず、社会の中で理解されていない現状が取材を通して分かった。映画を通じて少しでも理解が広がれば」と作品に込めた思いを語る。

 劇中では、ダンスによる表現が声の代わりにメッセージを伝える重要な要素となっている。その鍵を握るヒロインを演じるのは、ダンサーとして活動する有泉さんだ。演技経験こそないものの、ダンスを通じた表現力を生かして、自身初となる映画出演で重要な役柄を演じきった。

 有泉さんは「監督がダンスの繊細な表現をすごく丁寧に取り扱ってくださったのがうれしかった。作品を見てくれた方が前向きに一歩踏み出すきっかけになれば」と話している。

 ほかにも、セミの鳴き声や川のせせらぎ、木々の葉が擦れ合う音など、声の代わりとなるさまざまな表現が見どころだという。田中さんは「声を出せる方でも、声にならない多くの痛みを抱えて生きている。そういう方々にも大切な作品として届いてほしい」と思いを込めた。

 上映会は午前10時半、午後2時半からの2回(開場は30分前)。各回上映後に田中さんと有泉さんによるトークショーも行われる。

 チケットは千円。各回定員300人で、事前申し込みを呼びかけている。

 問い合わせ、田中さん(電話070・1778・9697)へ。

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