県部門
県産酒米と酵母開発
横堀 正敏(よこぼり・まさとし)氏(60)
県産業技術総合センター北部研究所担当部長
1989年に県職員となり、3年目の91年春、食品工業試験場(当時)に技師として赴任。以来、日本酒を中心とした県内酒メーカーの支援に携わってきた。東京工業大学(現東京科学大学)の大学院時代はプラスチック廃液の処理を研究。「生物は素人で、発酵と腐敗の違いすら分からなかった」と振り返る。
県内の蔵元では、南部杜氏(とうじ)など酒造りの時期だけ県外から働きに来る杜氏から、自社の社員による杜氏へと担い手が切り替わっていく時代だった。農業技術研究センターとともに、県産初の酒造好適米「さけ武蔵」を開発。理化学研究所との共同研究では、華やかな香りが特徴の県独自酵母「埼玉G酵母」を完成させた。「県内でも酒を造っていることを、多くの人たちに知ってほしかった」と、ブランド力の向上に取り組んだ。
大消費地の東京に隣接する県内には「蔵それぞれの方針があって、個性あふれる酒が多い」と評する。現在は若手職員の育成に力を注ぐ。進行中の新たな酵母の開発では、次世代の感覚を生かせるよう腐心。「輸出に対応できる酵母や技術支援も必要だろう。全国新酒鑑評会では、県内から金賞や入賞がもっと増えるようにしたい」と長年の経験と知識を、今後も惜しみなく伝えていく。
市部門
子供の笑顔のために
相葉 徳之(あいば・のりゆき)氏(63)
所沢市第1学校給食センター調理員
1983年に所沢市の第1学校給食センターで働き始める。その後、第1、3学校給食センターで全体の調理を統括するリーダーを約9年間務めた。「子どもの好きな味付けにしたいが、栄養士からは『味が濃い』と言われたりする。バランスを気を付けている」と給食の難しさを語る。
子どもの頃から給食が大好きで、積極的におかわりをしていた。そのおかげか、小学校ではクラスで一番低かったが身長が、中学時代には30センチ伸びて178センチに。「余った給食をもらうじゃんけんには必ず参加していた。今の子どもたちにも大きくなってほしい」と思いを語る。
所沢市出身。電気科の高校に通うも、4年半勤めたアルバイト先のうどん店店主夫妻に勧められ、専門学校の栄養士科に進学。在学中に同給食センターでの実習に参加し、調理の面白さを知った。同センターでは現在、職員68人で小中学校別メニューの給食を1日約7500食作る。
この41年でメニューは変わり、調理工程も増えたが、「師匠」と慕う実習生の時からの先輩の「作れない給食はない」という言葉をモットーに取り組む。「子どもたちに『おいしかった』と思ってもらえるのが一番。(食缶が)空になって戻ってくると、やっぱりうれしい」
警察部門
苦労した経験を今に
舛森 幸二(ますもり・こうじ)氏(55)
浦和東署刑事課鑑識係長
刑事畑を中心に、37年の警察官人生を送ってきた。受賞に「これまで一生懸命やってきたことが評価された。先輩や上司に感謝したい」と笑顔を見せた。
1988年に県警に入り、東入間署を振り出しに国際捜査部門や県内警察署で捜査に従事。刑事時代はがむしゃらに働き、検挙に何カ月もかかって疲弊のあまり、息子と被疑者の名前を間違えることもあった。それでも、被害者や出所した人から「舛森さんに出会えてよかった」と感謝され、その言葉に後押しされてやってきたという。
現在は鑑識係長として、遺留指紋・足跡の採取など事件の初動捜査を担っている。鑑識で得られた指紋や足跡は裁判で重要な証拠となることから、「一生懸命犯人を追いかけた捜査員のためにも、現場の証拠を見つけて少しでも手助けしたい」。捜査員時代に苦労した経験を今に生かしている。
今後はその経験を後輩たちに引き継いでいく。取り調べでは、信頼関係を築くためにも笑顔を忘れずに。そして「絶対にうそは言わない」と指導している。
休日は小学6年生の次男と遊び、風呂に入るときも寝るときも一緒だ。「子ども2人に対して自慢のお父さん像でありたい」
消防部門
地元熟知し安全貢献
伊藤 隆弘(いとう・たかひろ)氏(62)
狭山市消防団長
狭山市入間川に生まれ育ち、24歳で消防団に入団。「地形や浸水被害の状況といった、ハザードマップで調べられない、目で見て経験した人間にしか分からない危険がある」。知り尽くした地元で37年間、安全に貢献してきた。
「地域の中で10、20歳年上、年下の人と知り合って、地域に貢献するということはなかなかない。年齢やジャンルを超えて協力する人のつながりが、自分に合っていた」と振り返る。
2005年に分団長、06年に副団長、08年に団長に就任した。指揮命令系統の遵守を重視。消防署との連携や、水の中継作業、救助者や通行人の誘導といった後方支援など、全体の指揮を執る。火災だけでなく、水害や地震などの大規模災害への備えも欠かせない。「自助、共助、公助の体制づくりの一翼を担うのが消防団。消防署や警察、行政、地域住民をつなぎ合わせる接着剤になる」
気象災害が増加して消防団への期待が高まる一方、火災の発生は年々減少傾向で、若手団員の現場経験が少ないという課題もある。「市内には一級河川がある。今までは運よく決壊、氾濫はないが、いつでも起こりうる。専門職とは違って時間が限られる中でも訓練をすることが大事」と気を引き締めた。