2022年7月18日(月)

「原爆の図」緊迫の一夜 大雨で展示室が床上浸水、雨漏り「気が気でなかった」 東松山・丸木美術館

最大で約15センチ冠水した企画展示室。水が引いた後、床は泥水で覆われた=13日午前9時ごろ撮影(原爆の図丸木美術館提供)
企画展示室の床に残った泥の形跡=15日午前、原爆の図丸木美術館

 12日夕方から県西部を中心に降った記録的な大雨で、東松山市にある「原爆の図丸木美術館」が浸水被害に遭った。最大で床上約15センチまで水が上がってきたが、「原爆の図」が水に浸るなどの被害はなかった。都幾川沿いの同館では2019年の台風19号をはじめ、浸水することは時々あったというが、学芸員の岡村幸宣さん(48)は「ここまで大規模な浸水はおそらく初めて。改めて新館建設の必要性を実感した」と、近年相次ぐ豪雨災害に危機感を抱く。

 「原爆の図」は日本画家の丸木位里さん(1901〜95年)と妻で洋画家の俊さん(1912〜2000年)が原爆投下直後の広島で救援活動した体験を基に描いた連作。夫妻は1967年5月、東松山市下唐子に美術館を開館し、「原爆の図」1〜14部を常設展示。開館から50年以上たち、老朽化と増改築により、作品には虫食いや傷みが出ている。原爆の悲劇を伝える絵を後世に残すため、同館は2017年に基金を設置し、25年の新館完成を目指しているさなかだ。

 浸水したのは、東西に長い美術館のほぼ中央に位置し、一段低い場所にある企画展示室。同館によると、閉館後の12日午後5時過ぎ、壁と床のすき間から水があふれ出した。職員ら6人で、タオルで吸い取ったり、フローリング用のワイパーで水を外に出したりするなど懸命に作業を続けたが、水は止まることなく入り込み、3部屋ある企画展示室のうち、25畳程度の1室は15センチほどの高さまで冠水。都幾川は氾濫しなかったが、記録的な雨量により周辺の道路や排水溝からあふれた水が押し寄せたとみられている。

 職員たちは冠水した部屋の壁に展示していた絵画数点を2階に移動。1階の常設展示室にある「原爆の図」9〜14部、「水俣の図」などの大型作品については、室内に浸水もなく高さ約70センチの台座に載せているため搬出しない方が安全と判断した。13日朝に確認した際は、水はすでに引いており、職員やボランティア約10人で3〜4時間かけて泥水を掃除した。同日は臨時休館したが、14日からは通常通りに開館している。

 12日夜、展示スペースではなかったが2階の一部で雨漏りもしており、学芸員の後藤秀聖さん(37)は「和紙に描かれた原爆の図は水に弱い。天井から水が伝って墨がにじんだらどうしようと気が気でなかった」と話す。

 位里さんの故郷である広島市を流れる太田川の風景に似ていることから、東松山の地を選んだ丸木夫妻。岡村さんは「作品に被害がなくて本当によかった。川のほとりにあるリスクは知っているが、この場所にあることが大事と思っている。建物内部のどの辺りにひびがあるかも分かっておらず、さらに予想できないほどの雨が降るので対策もしにくいのが現状。温度や湿度管理ができる新館を建設するため、資金集めを積極的に呼びかけていきたい」と話している。

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