【東京ウオッチ】海が教えてくれる人生の不確実さと自由―スペイン生まれアーティスト、ココ・カピタンさん展覧会 いまのTokyoをつかむイベント情報(5日~13日)
◎今週の一推しイベント
【5日(土)】
▽「『LO57 LO53R』Coco Capitan」(~14日、港区・スパイラルガーデン、入場無料)
世界的に注目を集めるスペイン生まれの写真家でアーティストのココ・カピタンさんの展覧会が、青山で開催されている。
2017年にイタリアを代表するブランド「グッチ」のコラボレーターに抜てきされ、独特の字体でメッセージを載せたパーカ、ニットなどのアイテムで一躍名声を得た。その字体は子どもの頃の失読症の経験から生まれたという。その後はコマーシャルフォトとファインアートの分野を行き来し、多彩な創作を展開。「商業的な仕事からも芸術のヒントを得られる」と話す。
本展は、幼少期から身近な存在だったという海がメインテーマ。「人生の不確実性と自由の象徴」として、変わりゆく海の姿を、船の帆を使った18点の作品で表現する。
地殻を突き破って会場に出現したかのような実物大のヨットのインスタレーションは注目だ。「海は人間の力でコントロールできない。ロストルーザーという名の船長をイメージしたセーラー服のオブジェを置き、自然の大きな力の前では成功だけの人生はあり得ないことを表現した。負けても人々は航海を続けることができる」
大きな波と希望の言葉を帆に描いた大作も。「津波の力による被害から、私たちは再生できる。世界で災害や紛争は絶えないが、アートは常に人々に開かれており、人生の選択肢に気づかせてくれる存在だと思う」
○そのほかのお薦めイベント
【5日(土)】
▽「没後50年 映画監督 田坂具隆」(~11月24日、中央区・国立映画アーカイブ7階展示室)
日本映画の黄金期に人間味あふれる数々の名作を残した巨匠、田坂具隆(たさかともたか)監督の全貌を、書簡やゆかりの品々など関連資料約170点から浮かび上がらせる展覧会が、京橋で開かれている。
田坂は戦前から戦中にかけ、子役の名演が光る「路傍の石」や、軍隊の日常をリアルに描写した「五人の斥候兵」「土と兵隊」で高い評価を得た。国立映画アーカイブ(NFAJ)主任研究員の岡田秀則さんは「子どもや若者へエールを送り続けた人。戦争映画でも兵士たちの苦悩を描いた」と作風を解説する。
43歳で陸軍に召集され郷里広島で被爆。翌々年、後進の映画人に向けて書いた雑誌掲載記事に、自他を励ます静かな決意がにじむ。長い闘病を経て再起後も子どもを主人公に撮り続け、「雪割草」はホームドラマという和製英語が生まれるきっかけになったともされる。
「乳母車」や「陽のあたる坂道」では石原裕次郎の繊細な現代青年像を引き出した。共演した芦川いづみさんが寄せた、監督の人柄を懐かしむ文章も展示されている。
本展と関連し、田坂の全業績を再評価する初の書籍「ぐりゅうさん 映画監督田坂具隆」(国書刊行会)が近く出版予定。共編者の一人で、NFAJ司書の笹沼真理子さんは「田坂監督を取り巻く多くの人々の思いがこもった展示を見てほしい」と話す。
全監督作品を含む特集上映を8~20日と11月5~24日、NFAJで開催。
▽「土浦亀城邸」(港区・ポーラ青山ビルディング敷地内、原則として第4水・土曜に一般公開、各日2~3回のツアー実施、事前予約制)
米国を代表する建築家の一人、フランク・ロイド・ライトの弟子である建築家・土浦亀城が品川区に建てた自邸が、移築先の青山で毎月2日間、公開されている。
土浦は東京帝国大を卒業後、妻の信子と渡米。夫婦でライトの事務所で修行した。邸宅は1935年に木造乾式工法で建てられた、昭和初期の住宅建築を代表するインターナショナルスタイルの都市型小住宅。95年に東京都指定有形文化財に選ばれるなど高い評価を受けている。
外観は白い箱型で、内部のリビングは吹き抜けとスキップフロアによる立体的な空間構成が特徴だ。室内には外光がふんだんに入る。寝室の収納棚には亀城の洋服など日用品が残り、日本で初めて取り入れたというシステムキッチンには夫妻が使用していた食器類が並ぶ。デザインは今見てもモダンで、使いやすさが感じられる。
広報担当の中西由里香さんは「当時は全く新しいスタイルだったが、富裕層というより、多くの人が手に入れられる住宅を目指して建てられた。生活者のための設計の工夫が至るところに見られ、心地よさが漂っている」と話した。
【8日(火)】
▽「TRACING THE ROOTS 旅と手しごと」(~13日、渋谷区・ヒルサイドフォーラム、入場無料、事前予約制)
丁寧な手しごとに重きを置く表現者による合同展示会&マーケットが、代官山で開かれる。開始から10年の節目で最終回となる。
アーティスト33組による、自然素材を基に創作された家具や衣服、アクセサリー、オブジェを紹介。インドの布をパッチワークにして制作したストールやバッグもならぶ。企画を担当した尾見紀佐子さんは「次の時代につながる作家たちの作品のエネルギーを感じてほしい」と話した。
【10日(木)】
▽「傷だらけなのに気が付けない私たち~今だから語れるあの頃のこと~」(19時、豊島区男女平等推進センター〈エポック10〉)
自伝的エッセー「しにたい気持ちが消えるまで」で知られる詩人でエッセイストの豆塚エリさんがオンラインで語る講座が、池袋で行われる。
生きづらさに寄り添い、誰もが暮らしやすい社会にするためにできることを共に考える。