埼玉新聞

 

<月曜放談>世界に追い付く道筋、アジアで日本が示すために 日本サッカー協会会長・田嶋幸三氏寄稿

  • 田嶋幸三氏

 ワールドカップ(W杯)予選を楽に戦った記憶は、今まで一切ない。これまでも、終了間際にオウンゴールや相手の股をすり抜けていくようなシュートが決まり、辛うじて勝った試合が幾つもある。そして、そういう得点が生まれたのが、埼玉スタジアムの北サイドスタンドのゴールだった。私たちの日本代表は2002年の日韓大会以降、W杯予選のホームゲームでは主に、浦和レッズのホームである埼玉スタジアムを使わせていただいている。改めて、埼玉県や関係機関、埼玉県民の皆さんに感謝したいと思う。

 今回のアジア最終予選は、初戦でオマーン代表に敗れた。オマーンは日本戦に備え、1カ月間の合宿を実施。同じく黒星を喫したサウジアラビアも、2週間近くの合宿をしている。特にオマーン戦は、ほとんどの日本代表メンバーが欧州から帰国後、中2日で試合を迎えた。だが、私たちはそれを承知で戦わなくてはならない。

 11日に行われるベトナム戦は、アウェーの試合だ。ホームのベトナムが大きな力を発揮することは、今までも経験してきた。そして今回も、代表メンバーは欧州から、日本から集まり、短い時間で備えることが求められる。

 苦しい滑り出しとなり、森保一監督に対する厳しい声があることも承知している。だが、采配やトレーニング、メンバー選考は監督が決めるべきことだ。メディアなどからの批判を考慮していたとしたならば、それは監督の体をなしていない。欧州の国々の代表監督たちが、こんなことを言っていたのを思い出す。「一番手ごわい相手はメディアである」と。

 アジアでは、W杯予選を日本のような形で戦う国はない。だが、日本が世界で結果を残すには、選手たちが普段からレベルアップできる環境に身を置くことが大切だ。個の力が高ければ、それだけ良いコンビネーションも生まれる。多くの代表選手が欧州の舞台で己を磨き、世界に追い付く。日本がアジアでその道筋を示したい。そのためにも、まずは来年のカタール大会のチケットをもぎ取る。皆さん、ぜひ応援してください。

 さて、女子のプロリーグ「WEリーグ」が始まって間もなく2カ月がたつ。観客動員は十分ではないが、各クラブが努力しながら運営している。一時的な盛り上がりだけではなく、継続することでサポーター、そして地元に根付いたクラブになることを望んでいる。

 そして、女子日本代表「なでしこジャパン」は、監督に池田太氏が就任して新体制が始動した。池田監督は武南高校の出身で、浦和レッズでもプレーし、埼玉にゆかりが深い。18年のU―20(20歳以下)女子W杯では、監督として日本を初優勝に導いた。試合内容も素晴らしく、人とボールを動かして強豪国を崩し切っていた。私たちは男子が世界で頂点に立つ日を夢見ているが、その時には池田監督がこの大会で見せてくれたものが必要なのではないか。そんなヒントになるサッカーだった。新生なでしこジャパンも応援していただきたい。

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