埼玉新聞

 

人気「白鷺宝」、埼玉・浦和を代表する和菓子に 駅前の“菓匠花見”が代々作る チラシなど宣伝しない理由

  • 従来の白色だけでなく、カラフルかつ多彩な種類で人気を集めている白鷺宝

  • 元は自宅だった店舗。間口が狭く縦長の長屋造り=浦和区高砂

 シラサギの卵を模した丸くて白い和菓子「白鷺宝」。さいたま市浦和区を代表する贈答品で、ひと口サイズの優しい甘さが人気を呼んでいる。作っているのは、JR浦和駅西口前の「菓匠花見」。都内や県内のデパートにも多数出店する同店は、来年110周年を迎える。伝統と新しさのバランスを取りながら、手作りで季節の味を表現する和菓子。何代にもわたるひいきの客も少なくない。

 同店は、茨城で農家をしていた初代染谷七郎さんが親戚の菓子店を手伝っていたことから1912(大正元)年に同所で創業した。当初は手作りのカステラや団子、もなかなどを並べていたが客は思うように増えず、リヤカーで戸田橋方面まで売り歩いていた。

 白鷺宝は2代目の喜興司さんが「名物を作りたい」と考案。「その頃は商店が多く、今の県庁通りは砂利道。野田のサギ山から頻繁にシラサギが飛んできていたそうです」と、4代目を継ぐ常務の博之さん(38)は話す。あんこをミルクコーティングした斬新な菓子だったが、初めは1日20個作ってもそのまま売れ残ったという。

 骨董(こっとう)品収集が趣味で何事も研究熱心だった喜興司さんは69(昭和44)年、54歳の若さで逝去。当時18歳だった長男で現社長の幸一さん(71)が3代目となったが「大学だけは行かせてやりたい」と、卒業して他社での修業が終わるまで店は祖母が切り盛りしたという。現在は幸一さんの長男の博之さんが活躍している。

 「世に出るまで時間がかかったが、思いを受け継いで販売を続けた。街は近代化されたが白鷺宝を食べて昔はシラサギがいたことを思い出してもらえれば」と博之さん。南区から訪れた本山豊さん(81)は「しょっちゅう来る。いつも買うのは白鷺宝。おいしいし、人に喜ばれるからね」と語った。

 現在は色も白だけではなく、クリスマスや干支(えと)、サッカーをモチーフにするなどバリエーションに富んだ白鷺宝も登場。職人と二人三脚でアレンジしている博之さんは「原型の白鷺宝があるからこそ冒険ができる。新しいデザインを考えるのは楽しい。遊び心のある商品でお客さんをワクワクさせたい」と笑った。

 一方で、創業当時に販売していたどら焼きやまんじゅうなど朝生菓子に加え、上生菓子、ようかんなども扱うようにした。手作りにこだわるのは、機械製造に比べ客の希望にすぐ対応できるから。「細かな季節の変化をリアルタイムで表現した和菓子で時の移ろいを感じてもらえる」とも。

 同店は基本的にチラシなどの宣伝はしていない。「行けばいつもの品がある、変わらない味が買えるという信頼を大切にしたい。正直に良いものを作り続けたい」と博之さんは話した。

 【メモ】白鷺宝の「菓匠花見」本店は浦和区高砂1の6の10、電話048・822・2573。午前9時~午後6時、月曜定休。

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