残るか「レガシー」、期待はボランティアによる活性化 大半が無観客…盛り上がり欠いた東京五輪・パラ
本格的な寒さが訪れた今月中旬、東京五輪のゴルフ競技が開催された川越市の霞ケ関カンツリー倶楽部の最寄り駅、JR笠幡駅前は駅から降りる乗客の姿が見られる程度で閑散としていた。
五輪会場に決定後、市は駅前に広場やアクセス道路、公衆トイレなどを整備。観戦客や大会関係者を迎える対応を取ったが、無観客開催になり、期間中、にぎわう様子はなかった。県によると、約2千人の都市ボランティアが活動を予定していたが、新型コロナの影響で期間中に参加したのは176人。選手や関係者が乗った車両に手を振ったり、周辺の清掃などに当たった。
「駅前を新しくしたのに、もったいなかった。人けがなく寂しい」。近所の70代女性はぽつりと漏らした。
大半が無観客で終わった五輪・パラリンピック。盛り上がりを欠いた祭典の「レガシー」は残ったのだろうか。
さいたま市では、埼玉スタジアムで五輪のサッカー、さいたまスーパーアリーナでバスケットボールが開催された。市はおもてなし事業の準備を進めていたが、無観客開催となり、予定していた中学生らの観戦も見送られ、ほとんどのイベントが中止に。市オリンピック・パラリンピック部は「非常に残念だった」と振り返る。
好評だったのは、バスケ会場近くのJRさいたま新都心駅の東西自由通路に、出場国を歌舞伎で表現した装飾幕。15カ国の大使館などに寄贈し、来庁したベルギー大使は「国際的な交流を後押しする」と評価。フランスやチェコなどの大使館は会員制交流サイト(SNS)で紹介しているという。
市は本年度、五輪のレガシー事業として、バスケファンプロジェクトを実施。さいたまブロンコスの選手を招いて、誰もが気軽に参加してバスケの楽しさを知ってもらおうと、子ども向け体験教室などを開催した。来年度も同様の事業を実施し、子どものスポーツ参加やバスケ文化の醸成を目指す。
朝霞、和光、新座市にまたがる陸上自衛隊朝霞訓練場は射撃競技の会場となった。
朝霞市は、会場までのシンボルロードで、小学生が五輪をテーマに描いた絵画展を開いたり、道路案内標識の多言語化や公園トイレなどのバリアフリー化に取り組んだ。来年7月には日本ライフル射撃協会の全国大会、県ボッチャ協会の県大会を総合体育館で開催するほか、来年度からボランティアを登録し、市や地域の催しで活動を紹介する制度を始める。
和光市では市民団体「和光おもてなし隊」が小学校の放課後教室で五輪エンブレムなどを作り、小中学校に花の苗を提供した。児童らが育てたプランターを駅前に設置する活動は8月、小さな親切運動で表彰された。同隊の井上明次会長は「受賞を励みに今後もボランティア活動を続け、3年後のパリ五輪に向けて、市ゆかりの選手らの応援活動に取り組みたい」と意気込む。
新座市では、パラリンピックの射撃を隣接の小学校の児童らが観戦した。大会後には市内の小学校から公募した絵画346点を展示する「新座っ子が描く東京2020オリパラポスター展」を開催した。
「無観客は想定外だったが、SNSなどの交流で市民とのつながりができたことは大きい」「多くのボランティアが参加してくれたことが一番の喜び」。3市は市民やボランティアとの交流の意義を改めて認識し、ボランティアによる活性化に期待を寄せる。
■東京五輪・パラリンピックの県内開催
新型コロナウイルスの影響で1年延期された東京五輪・パラリンピックは7~8月に開催。しかし、「第5波」の感染拡大で、大半の競技が無観客で行われた。サッカーやバスケ、射撃、ゴルフの県内各会場もいずれも無観客開催になった。聖火リレーは沿道での観戦を控えるよう呼び掛けられたり、代替リレーが行われた。各国選手団の事前キャンプ地も地元との交流は限られたものになった。