<新型コロナ>オミクロン株の拡大、いつどうなるか分からない医療機関 あとから増える後遺症、パニックも
従来株に比べ感染力が強いとされる新型コロナウイルスのデルタ株の影響により、県内では7月下旬に連日過去最多の感染者数を記録し、8月2日には緊急事態宣言が適用された。しかし効果はすぐには現れず、21日にはコロナ病床全体の使用率がピークの72・4%、28日には重症病床が78・9%に達した。
早くからコロナ対応の「トータルケア」を掲げ、宿泊療養者の支援やワクチン接種などを担ってきた公平病院(戸田市)は8月末に仮設病棟を含めた68床全てで感染患者に対応する「コロナ専門病院」に移行した。1千人以上の入院を受け入れたという公平誠院長は「入院患者の受け入れはベッドの清掃や治療方針の決定など数人でも大変な業務が伴う。第5波では毎日10人近くの患者を受け入れ、かなり疲弊した」と振り返る。
自宅療養者の人数も県の想定の約2倍に上った。県は7月に「宿泊・自宅療養者支援センター」を開設し、民間事業者に自宅療養者らの健康観察を委託。8月中旬ごろから業務が滞りはじめ、自宅療養者数が一時過大に報告されていたことが明らかになった。
さいたま市では自宅療養中に死亡した60代男性について、電話に応答しなかったにもかかわらずセンターが保健所に報告していなかったことが判明し、県がセンターの対応について謝罪する事態となった。県によると、第5波では9人が自宅療養中に死亡したという。県はその後、センターの業務を複数の業者で分担する体制へ見直した。
県医師会の金井忠男会長は「県はよく対応してきたが、第5波は急激な増加に対応しきれず、自宅療養者の健康観察が機能しなかった部分があった」と振り返る。反省点の一つに手を打つのが遅過ぎたことを挙げ、「国は地域に応じた対策を迅速に取れる権限を都道府県知事に与えるべきだ」と指摘する。
新たな変異株「オミクロン株」により今後懸念される第6波については「いつどうなるか分からない」としつつ、「関西で猛威を振るったが関東では低く収まった第4波のように、相手を知ることで逼迫(ひっぱく)を避けられる可能性がある」。
感染状況は9月に入り下降したが、反比例して「後遺症外来の患者がどっと増えた」と公平院長は話す。公平病院は県が10月に後遺症外来を開始する前から診療してきたが、第5波以降に診察を受けた患者が後遺症患者全体の半数以上を占めたという。
県後遺症外来で精神科などを中心に診察している埼玉精神神経センター(さいたま市中央区)の丸木雄一理事長は「自分が後遺症なのか分からず、職場などで怠け者のように思われるのがつらいと言う人も多い。後遺症外来で診断がつくことで心が穏やかになるようだ」と説明する。同センターには「けん怠感で学校を早退せざるを得なかった」「職場復帰後、通勤中に嘔吐(おうと)するなどパニック状態になってしまう」といった症状が寄せられ、漢方薬などの東洋医学で改善する人が多いという。
感染状況の収束にはワクチン接種の浸透が貢献したとの見方もあるが、接種によって体調不良に襲われたと訴える人もいる。羽生市の女性(30)は飲食業の職域接種で8月に接種を受け、直後から手足の痛みやけいれんが続き、今も仕事や家事もできないという。女性は「シングルマザーなので先が見えないのがつらい。こんなことになると分かっていたら打たなかった」と悔やみ、「かかりつけ医はけんか腰の対応で、助けてくれなかった。医師からの謝罪がほしい」とうなだれた。
県はワクチン接種後の体調不良について、かかりつけ医からの紹介があれば専門医療機関の4大学病院で診察を行うとしている。
■新型コロナ「第5波」
新型コロナウイルスの感染状況は「デルタ株」と呼ばれる変異株の登場により7月から感染者が急増し、8月は1カ月で約4万4千人が感染した。7~9月の3カ月間では感染者数がそれまでの倍以上となり、病床使用率は8月下旬に7割を超えた。県が民間に委託した自宅療養者の体調管理業務も滞り、自宅で亡くなる人が続出。ワクチン接種の促進と共に9月中旬以降は徐々に収まりを見せたが、県が開設した後遺症外来には第5波で感染した人が多く訪れた。