ポール・メスカル インタビュー「深い悲しみ伝える責任」 名作続編主演「グラディエーター2 英雄を呼ぶ声」
古代ローマで謀略により剣闘士に身を落とした元将軍が復讐を果たす映画「グラディエーター」は、米アカデミー賞で5冠に輝いた不朽の名作だ。その続編「グラディエーター2 英雄を呼ぶ声」(11月15日公開)に主演したポール・メスカル(28)は「観客は主人公に深い痛みと悲しみを感じる。ローマ帝国に対し前作以上に批判的な視点を持ち、面白い」と話す。
映画は北アフリカの都市がローマ帝国に侵略される場面から始まる。妻を殺され捕虜にされたルシアス(メスカル)は、謎の奴隷商人(デンゼル・ワシントン)に買われ、ローマへ。剣闘士となり将軍への復讐を狙う。
中盤で、ルシアスは前作の主人公マキシマスと敵対した皇帝コモドゥスの姉の子だと判明。母から見捨てられ、新天地で見つけた幸福も母国に奪われたルシアスは強い悲劇性を帯びる。メスカルはこれまでも「異人たち」などで深い傷を負った男を演じてきた。「悲しみに引かれるんだ。それを理解でき、観客に伝える責任があると感じる」と語る。
復讐物語として前作をなぞるかのようだが、後半でルシアスはためらいながらも帝国を立て直す英雄の道を歩み始める。「そういうところが演じていて面白かったし、前作と違う映画にしていると思う」
前作でも描かれた群衆と権力者の関係性は、より深められている。「間違いなく現代社会を反映していると思う」とメスカル。劇中でルシアスが一般市民と権力者の断絶を指摘するのを引き合いに、「優れた映画は、歴史とは果てしなく繰り返されるサイクルであると観客に伝える。エリートが一般の人々のことを考えなくなっているというのは、現代にも当てはまる」と話した。
鍛え上げられた肉体が躍動する殺陣も大きな魅力だ。マスターするには2~3カ月を費やしたという。「朝はジムに通い、午後はスタントチームと一緒にトレーニングをする。ただ同じことの繰り返し。魔法の薬とか秘密の野菜とか、そういうものはないんだ」と笑う。
巨匠リドリー・スコットは、現場で過剰に何かを付け加えたりコミュニケーションを取ったりすることがない一方、演出する際にはとても明快だったとして「解放的な経験」だったと振り返る。そのことが、監督への信頼につながった。
身体的に過酷な時もあったが、ずっとアドレナリンが出っぱなし。「夢のようなセットで、リドリー・スコットに演出を受ける。アドレナリンが出ないなら、仕事が間違っているのでは」。共演したワシントンに関しても「最高の俳優の一人」と絶賛した。
今作に主演したことがキャリアの中で占める重要性を尋ねると、「巨大だ」と表現。ただ、「特に若手俳優のうちは今作っているものに集中しなくてはならない」とも。自身の出身とも言える舞台やインディペンデント系の映画に、これからも出演したいという。青い瞳に、おごりはみじんも感じられない。
(取材・文=共同通信 鈴木沙巴良 撮影=渡辺二美一)