埼玉新聞

 

東日本の物流の要に 2015年10月に県内区間全線開通した圏央道 雇用、税収にも大きく寄与 埼玉の近隣6都県の中核都市に約1時間半でアクセス 沿線地域には大型物流施設をはじめとした企業立地が相次ぐ

  • 久喜白岡ジャンクション上空(2024年3月10日撮影、国土交通省関東地方整備局提供)

    久喜白岡ジャンクション上空(2024年3月10日撮影、国土交通省関東地方整備局提供)

  • 久喜白岡ジャンクション上空(2024年3月10日撮影、国土交通省関東地方整備局提供)

 関東のほぼ中央に位置し、首都東京のみならず、東北や北陸など東日本全域への物流の“ハブ”として重要な役割を担う本県。その経済発展に欠かせないのが、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の存在だ。2015年10月に県内全区間が開通。近隣6都県(東京、神奈川、千葉、茨城、栃木、群馬)の中核都市に約1時間半で行けるようになり、沿線地域には大型物流施設をはじめとした企業立地が相次いでいる。

 圏央道の整備計画は総延長約300キロ。都心の交通緩和を目的に、1985年に建設省(現・国交省)と日本道路公団(現・東日本高速道路)が共同で事業化。96年3月に東京・青梅インターチェンジ(IC)―鶴ケ島ジャンクション(JCT)間19・8キロの開通を皮切りに、2017年2月の茨城県の境古河IC―つくば中央IC間の開通で全体の9割が完成した。

 東名高速と東北道方面に抜ける都内の交通量は、県内全区間が開通した15年10月(桶川北本IC―白岡菖蒲IC間)を境に激変。それまで首都高経由で抜けていた車両は1日当たり4300台から2300台に減少。一般道を含め、圏央道の内側を走る“通過交通”は約3割に減少した。

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 企業誘致の面でも県内経済に与えた影響は大きい。国交省によると、05年1月から15年12月の11年間で計838社が本社機能や物流拠点を県内に新規立地。そのうち約6割(479社)が圏央道周辺に集中している。1万8005人の雇用を創出し、企業の投資額は6749億円に上る。県民税や事業税などの税収も川島IC―桶川北本ICが開通した10年から、久喜白岡JCT―境古河ICが開通した15年の5年間で約560億円増加した。

 県内全区間が開通する直前の14年度地価上昇率(工業地)は県平均0・6%であるのに対し、圏央道沿線地域は2・3%。同調査から半年後に開通した幸手市は5・6%と最も高い伸び率を示した。

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 神奈川県厚木市と東松山市に工場がある機械部品メーカーでは、東松山ICから神奈川県の相模原愛川ICの所要時間が約31分間短縮。同社では「従業員の行き来が楽になり、時間を有効活用できている」と話す。化粧品・日用品の卸売会社は15年8月に白岡菖蒲IC近くに大型物流センターを開設。入間ICとの所要時間が75分から45分に短縮した。

 県倉庫協会の島田豊保常務理事は「貨物の配送時間短縮はガソリン代などの輸送コストに直結するので、その整備効果は計り知れない」と歓迎。首都直下地震などの有事にも「都心から扇状に広がる高速道路網の要として埼玉の果たす役割は大きい。圏央道周辺の地盤も固く、災害支援物資の供給基地としても役立ちたい」と話す。

 残る神奈川県区間(藤沢IC―釜利谷JCT)の完成時期は未定だが、千葉県区間(大栄JCT―松尾横芝IC)は26年度中に開通予定。国交省関東地方整備局道路部の三條憲一課長は「沿線では物流拠点や小売店舗が続々と立地している。来春の県内区間の全線4車線化で、防災・減災にも強いネットワークを構築したい」と話している。

■整備効果、年間3千億円 災害時の代替ルートも

 圏央道は都心から半径約40~60キロに位置し、その内側を走る首都高速中央環状線、東京外郭環状道路(外環道)と合わせて「3環状」と呼ばれる。

 3環状は東名高速、関越道、東北道といった都心から放射状に広がる高速道路と直結することで多様な機能を発揮。中でも圏央道は東京湾アクアラインとの相乗効果で、港湾や空港の国際貨物輸送や外国人観光客の回遊性の向上、災害時の代替ルートの多重化など首都圏経済へのストック効果は大きい。

 民間シンクタンクの調査では、圏央道の整備に伴う経済効果(国内総生産の押し上げ)は年間で約3千億円。沿線の1都4県(東京・神奈川・埼玉・茨城・千葉)では運輸業とサービス業それぞれの寄与度が約3割と最も高く、物流拠点や商業施設の立地が増えている裏付けを示している。

 だが、1963年の計画の立ち上げから61年たった現在でも未開通区間が存在する。国交省によると、3環状の整備率は10月末現在で約82%で、圏央道は約90%。都市交通計画が専門の久保田尚埼玉大学名誉教授(66)は「環状道路としての機能を十分に発揮するためには、放射状に広がる東埼玉道路や新大宮上尾道路などの自動車専用道路や核都市広域幹線道路とともに、いかに早期整備を進めるかが重要」と話した。

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