埼玉新聞

 

<月曜放談>経験を積み対策、コロナ禍でもスポーツイベント開催を 日本サッカー協会会長・田嶋幸三氏寄稿

  • 田嶋幸三氏

 新年明けましておめでとうございます。新型コロナウイルス感染拡大は2年以上も続いており、新たな変異のオミクロン株が出現した。ただ、私たちは十分に経験を積んだ。スポーツだけではなく医療現場でもデータの蓄積がある。感染者数だけに振り回されることなく、合理的に判断しなければならない。そして、私たちはしっかりと対策を行い、スポーツイベントを途切れることなく開催できるようにしなければと考えている。

 昨年12月19日、天皇杯全日本選手権の決勝が国立競技場に満員の5万7785人を集めて行われた。お客さまにはマスクを着用し、ルールにのっとって観戦していただいた。これは、JリーグやWEリーグなどが感染者を増やさないよう努力してきた経験を生かして実現できたことだ。

 皆さんご存じの通り、槙野智章選手の劇的ゴールで浦和が優勝。浦和の街はにぎわったことだろう。そして、今月5日に皇后杯全日本女子選手権準決勝が行われ、浦和レッズレディースが決勝に進んだ。浦和の男女がカップ戦で優勝すれば、サッカーの街浦和の証しと言える。皇后杯もぜひ、頑張ってほしい。

 ワールドカップ(W杯)予選も佳境を迎えている。日本代表の聖地でもある埼玉スタジアムでホームの3試合を開催できるのは、本当にありがたい。

 オミクロン株は世界中でまん延し、日本でも急速に広がりつつある。人命が最優先されるのは言うまでもないが、これまでのように社会活動を大きく制約すれば、スポーツ界だけではなくさまざまな分野に深刻な影響を及ぼすだろう。やはり、お客さまあってのスポーツであり、エンターテインメントだと思う。大野元裕知事とも連携し、27日の中国戦と2月1日のサウジアラビア戦は、これまでの感染防止対策に加えて観客数を制限し、入場条件を設けるなど、安全に安心して観戦できる体制で試合を実施できるよう準備を進めている。

 この時期には、武南高校出身の池田太監督率いる女子日本代表「なでしこジャパン」が2023年女子W杯の予選を兼ねたアジアカップ(インド)に臨む。ここでも頂点に立ち、今秋のカタールW杯を目指す日本代表と同様、男女そろってW杯出場権を手にしてもらいたい。

 今月7日、第100回を迎えた全国高校選手権のさなかに、高校サッカー界の名将・小嶺忠敏先生が亡くなられた。監督をしていた長崎総合科学大付高校は今大会の出場を果たしたが、小嶺先生は試合を指揮できなかった。国見高校(長崎)を6度の全国選手権制覇に導いたばかりか、U―17(17歳以下)日本代表監督として中田英寿選手や宮本恒靖選手、松田直樹選手らを見出している。私のような年下の者にも、「田嶋君、きょうの試合の感想を言ってくれ。あの選手はどう思う」などと、常に学ぼうとする方だった。若い頃は私の母校である浦和南高校監督の松本暁司先生のところにも足しげく通い、教えを請うたと聞く。

 埼玉、広島、静岡のサッカーが隆盛を誇っていた時代から地方の無名校を率いて全国大会に挑み続け、壁を乗り越えた。それは今、W杯16強を突破しようともがく日本代表とも重なる。日本がW杯で優勝するため、私たちは何度も挑戦しなければならない。小嶺先生はそれを教えてくれた。人生をサッカーに捧(ささ)げた方だった。

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