埼玉新聞

 

「口で絵を描く画家」、絵筆くわえキャンバスに色重ねる 初めての出品、作品展でいきなり受賞 自身の活動、世間に広め「障害への正しい理解と社会に踏み出すきっかけに」

  • 自作の絵筆で全体の構図を俯瞰(ふかん)しながら描く梅宮さん

    自作の絵筆で全体の構図を俯瞰(ふかん)しながら描く梅宮さん

  • 越谷レイクタウンの自然を描いた油彩画「光と風(レイクタウン)」((C)MFPA)

    越谷レイクタウンの自然を描いた油彩画「光と風(レイクタウン)」((C)MFPA)

  • 自作の絵筆で全体の構図を俯瞰(ふかん)しながら描く梅宮さん
  • 越谷レイクタウンの自然を描いた油彩画「光と風(レイクタウン)」((C)MFPA)

 自作の絵筆を器用に口でくわえ、キャンバスに色を重ねていく。越谷市在住の梅宮俊明さん(58)は「口で絵を描く画家」として知られている。コロナ禍を経て以前の日常が戻りつつある中、「海外にも題材のスナップ撮影に出かけたい。久しぶりに個展も開けたら」と笑顔で話す。自身の活動を世間に広めることで、「障害への正しい理解と体の不自由な人が社会に踏み出すきっかけになれば」と願っている。

■事故で脊椎損傷

 梅宮さんは元々体を動かすことが大好きな野球少年で、周囲を明るくするムードメーカーとして活発な学生時代を過ごしてきた。19歳の時に友人が運転する車で交通事故に遭い、脊椎を損傷。肩から下の感覚を失い、車いす生活を余儀なくされた。事故後は「自暴自棄で何もかもやる気が起きなかった」と振り返るが、友人の誘いで地元社会福祉協議会の絵画教室に出かけたことで人生が一変。自分の内面を絵で表現することの楽しさを知り、31歳の時に口で絵を描き始めた。

■慈善ではなく自立

 けがや病気で両手が不自由になった画家らで組織される「口と足で描く芸術家協会」(MFPA、東京都新宿区)には梅宮さんをはじめ、現在、国内20人のアーティストが所属。ドイツに本部があり、世界69の国と地域で約740人の画家が活躍している。

 団体のモットーは「慈善ではなく、自立を」。日本支部の田川昌明さん(54)は、障害のある人が「慈善や福祉など他人の力を借りるだけではなく、自分でお金を稼ぎ自立することを目標にしている」と設立の趣旨を語る。協会では画家たちが描いた作品を使って絵はがきやカレンダーなどを作製。販売収益は画家の日々の生活や絵を学ぶための授業料、画材購入費用などの基盤となっている。

■個展開催を糧に

 絵を描くことは「最初は趣味程度だった」という梅宮さん。2006年に初めて作品展に出品すると、いきなり「全国肢体不自由児者父母の会連合賞」を受賞。翌年には優秀賞にも選ばれ、本格的に創作活動にのめり込んだ。これまで描いた作品は、同協会が把握するだけでも計133点。イタリア・ローマの街並みや浦和レッズの試合風景、地元越谷レイクタウンの水辺など多岐にわたる。11年にさいたま市で初の個展を開催、18年には東京五輪・パラリンピックのイメージ映像に出演するなど協会の啓発活動にも精力的に取り組んでいる。

 ここ数年、臀部(でんぶ)の床擦れで入退院を繰り返しているが、「体調と相談しながらまた海外にも出かけてみたい」と前向きな梅宮さん。現在、「青森のねぶた祭」など大作に取りかかっており、「県内で個展を開きます」と力強く語った。

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