立てこもり…浮かんだ「在宅医療」の実態、誤った方向へ思い込む人も 対立は日常茶飯事、警察介入も
ふじみ野市で先月27日に起きた立てこもり事件から1週間がたった。逮捕された男は母親への訪問診療や介護を巡り、トラブルを起こしていた。在宅医療は県内でも推進されているが、訪問看護に関わる現場は「在宅医療は患者家族との信頼関係の構築なしに成り立たないが、意見の対立は日常茶飯事」と負担の重さを訴える。
事件は1月27日午後9時ごろ、ふじみ野市大井武蔵野の住宅で発生。住人の男(66)=殺人容疑で送検=が母親の弔問に訪れた医師(44)を散弾銃で殺害、一緒にいた理学療法士の男性(41)に重傷を負わせるなどした上、約11時間にわたって立てこもった。
動機について、男は「母が死んで、この先いいことはないと思った。自殺しようと思っていた時に、自分だけでなく医師やクリニックの人も殺そうと考えた」と供述しているという。
■高齢化進み需要増
昼夜を問わない訪問診療に関わり、地域医療の要として頼りにされていた医師が亡くなった今回の事件。これまで10年以上訪問看護に関わってきた60代の女性看護師は「地元の患者のために一生懸命やってきた先生。まだ若く、これから多くの人の命に寄り添えたはずなのに」と声を震わせた。
県医療整備課によると、県民の高齢化が進んでいることなどから在宅医療の需要は年々増えているという。県内で在宅医療を必要としている人は2013年に2万6626人だったのが、23年には約1・8倍の4万5431人になると推計。そのため県内の各医療機関は在宅医療に力を入れており、その拠点は21年10月時点で少なくとも886カ所に上る。県も対応できる機関を増やそうと、医師や看護師らに講習を行うなど支援事業を通して推進している。
■信頼関係の構築必須
事件は、そんな在宅医療の現場でのトラブルに由来するとみられている。女性看護師は「在宅医療現場では医師や看護師らと患者家族の意見が対立することは日常茶飯事」と打ち明ける。
訪問看護は病院内での看護とは異なり、患者と接する時間が限られるため、患者が1人暮らしではない限り家族らと協力して対応することが多い。「日常生活の中にわれわれが入ってサポートするイメージ」と女性看護師が言うように、円滑な看護をするには家族らとの信頼関係の構築は必須だ。しかし、家族らが思い込みで本来適切でない処置を望むこともあり、意見の対立からトラブルに発展し、警察が介入するケースもあるという。
また在宅医療は医師や看護師らの負担も大きい。女性看護師によると、病院で医療処置をする場合は整備された環境で多くの医療関係者が対応できるが、在宅医療は個人の力量がより問われ、その分負担も大きくなるという。
「それでも自分たちが少しでも必要とされている命がある、という使命で動いている」と女性看護師は話したが、「それなのにこのような事件が起きてしまうのは無念で仕方ない」とやりきれなさを口にした。