埼玉新聞

 

まさか…新型コロナや材料費高 逆境はねのけ、街の豆腐店が新たな挑戦 開発した豆乳スイーツが人気商品に

  • 自身が作った豆腐を手にするさかえや豆腐店の本多孝行代表=さいたま市南区辻

  • 1月末から販売を始めた新商品「豆腐ジェラート」

 日本の食文化に欠かせない食材の一つ「豆腐」。埼玉県のさいたま市南区辻で、50年以上にわたって地域に愛されている「さかえや豆腐店」は、新型コロナウイルスや原油、原材料高などの逆境をはねのけ、豆乳スイーツを商品化するなど新たな挑戦を続ける。代表の本多孝行さん(54)は「豆腐で地域を元気にすることができたら」と力を込める。

■50年以上の歴史

 さかえや豆腐店は1966年に本多さんの父・利光さんが創業。2014年に本多さんが事業を引き継いだ。本多さんは、「これまでと変わらずおいしい豆腐を食べてほしい」と、内容量や大豆固形分の濃度を変更せず製造。定番の豆腐はあえて味付けはしておらず、「素朴で甘みが抑えめ」「毎日食べても飽きない」と親しまれている。

 厚生労働省によると、19年時点で全国の豆腐製造業の施設数は5713施設。30年前の89年(2万2740施設)と比較すると約4分の1程度まで減少した。本多さんは「高齢化に伴う後継者不足や大手メーカーの低価格商品に押されて廃業を余儀なくされるケースが目立つ」と話した。

■苦境に追い打ち

 近年は新型コロナウイルスなどの影響で「街の豆腐屋」はさらなる苦境に立たされている。同店でも、商品を卸していた飲食店や学校が休業、休校を余儀なくされ100以上の取引先のほとんどがなくなった。

 20年は売上高前年比で約4割減少。「まさかこんなことになるとは」と振り返る。さらに追い打ちをかけたのが材料費高。国産大豆は天候不順による不作、輸入品は世界的にバイオ燃料としての需要が増すなど、それぞれ価格が上昇しており、食用油やビニールなどを含め全体で4~5割コスト高になった。

 売り上げは落ちて、コストは上がる。本多さんは、昔ながらの製法を守りつつ価格を維持。一般的にスーパーに並んでいる低価格の豆腐の多くは内容量や成分濃度を下げている。

■若者向けスイーツ

 「このままでは店がなくなってしまう」。本多さんは現状を変えられないかと考えた。卸売りが厳しい状況にあることから、小売りに注力するため「キッチンOhana」(おはな)を20年10月末にオープン。低カロリーでありながら高い栄養価で支持されている豆乳にヒントを得て、若者をメインターゲットにスイーツを開発、商品化した。

 1年かけて販売してきたスイーツは約40種類。チーズケーキやシフォンケーキ、スイートポテトなど、全ての商品に豆腐や豆乳を使用している。舌触りが滑らかで、カロリーを抑えた商品は「食べやすい」と、近所の若者や親子などに人気で、孝行さんは「リピーターがとにかく多い」と笑顔を見せる。売り上げも卸売りで減少した分をカバーできるまでになった。3月には自社サイトを開設する計画も進めている。

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