秩父の象徴に別れ 国道140号線「秩父陸橋」解体 「地元に帰ってきた」と実感する秩父出身者のシンボル的存在 下を走っていた線路は1996年の工場閉鎖後撤去されてた
秩父市中心部の国道140号線上に架かる「秩父陸橋」の平面化事業が進んでいる。県秩父県土整備事務所は同橋の解体・平面化工事に伴い、10月下旬からの通行を迂回(うかい)路へ切り替えた。事業完了は2027年度末の見通し。橋長31・8メートル、斜面約5%の同橋は、熊谷市方面から山梨県方面へ通行する際、武甲山などの壮大な景色が望める。「壊してしまうのは名残惜しい」という住民らの声もあるが、同事業は地域の安全対策と経済発展へつながっている。
■県内唯一の役なし橋
秩父陸橋は鉄道線路の上をまたぐ跨線(こせん)橋として1957年に建設。橋下に旧秩父セメント(現秩父太平洋セメント)の第一工場と秩父鉄道本線をつなぐ引き込み線があり、武甲山で採掘した石灰岩などが貨物車で運ばれていた。96年、第一工場の閉鎖に伴い、引き込み線も撤去。現在まで老朽化した橋だけが残されていた。
同事務所によると、橋としての役割を終えた後も通行路として利用が続いた橋は、県内では秩父陸橋のみ。そのため、事業に着手した2018年度時は、「歴史的価値があるかは分からないが、保存した方がよいのでは」との声が一部住民にあった。
■環境汚染や渋滞も
今回の平面化工事は、「排気ガスの充満やエンジン音などが響き、環境に悪い」「坂道の凍結などにより危険性が高い」などの住民の意見や、「修繕工事のたびに多額の費用がかかる」などの課題を解消するため、同事務所が市の要望を受けて行っている。
同橋の建設や、迂回路ルート工事に携わった建設会社山口組(同市大野原)の新井公裕工事部長(47)は「橋上の修繕工事は、足場の確保や耐震補強、墜落防止対策などが必要で、費用も時間もかさむ。冬場は路面凍結の影響で、渋滞のもとをつくっている」と説明する。同社の新井久夫取締役(66)は「ここを通るたびに『地元に帰ってきた』と実感が湧く秩父出身者にとってはシンボル的存在だが、老朽化で路面のひび割れが目立ち、引退の時期を迎えていた」と、少し寂しそうに語る。
■平面化のメリット
同事業のメリットは多い。平面化工事に合わせて上野町交差点から秩父警察署前までの線上約720メートル間の電線類が地中化されるため、景観や防災上の安全性が向上する。周辺開発に着手しやすくなり、秩父鉄道秩父駅から南側の発展が見込める。事業完了と同時期に西関東連絡道路の一部「大滝トンネル」が開通予定で、秩父地域に多くの人が訪れやすくなるなど。
工事は11月末現在、橋以外の擁壁部の取り壊し作業を進めている。工事期間中は、元ルートよりも約400メートル長い、片道約950メートルの迂回コースが一般国道140号に指定される。
同事務所の辻幸二所長(60)は「他の国道や県道を使って迂回される方も多く、現在まで大規模な渋滞や事故は起きていない。皆さまには、しばらくご迷惑をかけることになるが、地域の要望と発展に応えるため、一丸で工事を進めていく」と話した。