埼玉新聞

 

<新型コロナ>コロナは軽症でも高度な治療が必要な人も…埼玉の今後は 東京から連日搬送、10時間待ちも

  • 感染防護服を着てドクターヘリで搬送されてきた患者の対応に当たる病院職員ら=15日、川越市(画像の一部を加工)

 県の新年度予算案が発表された。昨年、県誕生150周年を迎え、「新たな150年の発展に向けてさまざまな課題解決に挑戦」と強調する予算案から現状と課題を点検する。

■医療の維持へ新型コロナ対策増額 保育園休業、思わぬ制約

 過去2年間続く新型コロナウイルス感染症への対応を継続するため、県は医療機関への支援やワクチン接種推進のための費用として、新年度予算で約1880億円を計上した。全体に占める割合としては約8%で、5%だった昨年よりも拡大。大野元裕知事は10日の記者会見で「引き続き感染動向も踏まえ、さらなる医療提供体制の強化などに万全を尽くす」と強調した。

 デルタ株より症状が軽いとされるオミクロン株でも、基礎疾患の悪化などで高度な治療を必要とする患者は後を絶たない。埼玉医科大学総合医療センター高度救命救急センター長の澤野誠教授(61)は「これまでの重症患者は高齢者が中心で、本人も家族も人工呼吸器などによる治療を望まないケースもあった」と振り返り、「第6波の重症患者は若く基礎疾患があり、コロナ自体は軽症の場合がほとんど。既往症が急激に悪化する恐れがある一方で、極めてまれだがコロナにより重症化した場合はあらゆる処置が求められ、現場は常に張り詰めている」と話す。

■都内から連日搬送

 県は新年度、コロナ患者を受け入れつつ救命救急や周産期医療を継続する医療機関への支援のため約6億8千万円を確保した。コロナ対応に人材などの資源が割かれる中、人員補充や業務効率化のための機材の導入などに活用してもらい、必要性の高い医療を維持するのが狙いだ。

 同院はコロナ対応と並行して高度救命救急や周産期医療を担う。澤野教授は「このところ、医療が逼迫(ひっぱく)した東京都から連日重症救急患者が高度救命救急センターに搬送されてくる」と明かす。同センターの病床稼働率は通常、新規救急患者受け入れのため7割程度だが、最近は常に9割を超え、東京都で10時間以上受け入れ先を探していたケースや他県からドクターヘリで搬送されてくるケースもある。院内感染防止のため、全ての救急患者の受け入れの際に防護服の着用や検査の実施など多くの手間がかかるが「(収容を)断れば行くところがない患者も多い。医師や看護師をはじめ職員は皆、歯を食いしばって救命救急医療を制限せずに継続している」という。

■人材確保支援も

 一方で悩ましいのは看護師など医療従事者の確保だ。県は新年度、コロナ対応などに当たる医療機関に勤務する看護職員の処遇改善のために約11億5千万円を充てるなど、さまざまな補助金で医療機関の人材確保を支援する。しかし澤野教授は「子どもを通わせる保育園や学校がクラスター(感染者集団)発生などで休業すると、看護師らは頑張りたくても仕事を休まざるを得ない」と医療現場にしわ寄せが来ていると指摘する。

 「当院の看護師は地元愛が強く、コロナ禍でもほとんど離職せずに本当によく働いてくれている」と称賛した上で、「病院全体で看護師をはじめとする人員を調整し医療提供体制を維持しているが非常に厳しい状況だ」として保育所などの代替手段の確保を訴えた。

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