埼玉新聞

 

なぜ撃たれた…ふじみ野立てこもり、理学療法士も狙う 患者と向き合う時間長く、トラブルでは怒りの対象か

  • 患者のリハビリをサポートする理学療法士(埼玉医科大学提供)

 ふじみ野市大井武蔵野の住宅で1月、医師らが散弾銃で撃たれて死傷した立てこもり事件で、医師らとともに容疑者方を訪れた理学療法士の男性(41)=さいたま市西区=を射殺しようとしたとして県警東入間署捜査本部は18日、殺人未遂の疑いで、無職渡辺宏容疑者(66)=殺人容疑で送検=を再逮捕した。捜査関係者によると、渡辺容疑者は「殺すつもりはなかった。人に向けて撃ったことは間違いない」と殺意については否認しているという。

 事件当日、渡辺容疑者に銃で撃たれたのは、亡くなった医師の鈴木純一さん(44)と理学療法士の男性(41)だった。医師だけでなく、なぜ理学療法士も狙われたのだろうか。関係者らは「患者に感謝されることが多い理学療法士だが、トラブルに遭うと怒りの対象になりやすいのでは」と推測。さらに在宅診療では1人の負担が重くなり、対策を求める声が出ている。

 捜査関係者によると、理学療法士の男性は上半身を撃たれて一時重体になり、現在も入院している。

 渡辺容疑者は事件前日に死亡した母親(92)の在宅医療を巡って、親身に対応していた鈴木さんらに、クレームを浴びせることもあったされる。理学療法士の男性が撃たれた理由について、県東部の総合病院に勤務する20代の女性の理学療法士は「患者と向き合う時間が長く、より深い関係を築きやすいからではないか」と考える。

 理学療法士はけがや病気などで体を動かす上で問題を抱える人に、日常生活に必要な基本動作ができるようにリハビリを通してサポートする役割を担っている。埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科の藤田博暁教授は「患者がけがなどから日常を取り戻すためには理学療法士による治療は欠かせない」とし、患者や家族に感謝されることが少なくないという。

 一方、元警察官で30代の男性理学療法士は「裏を返せば、トラブルに遭った際には怒りの対象にもなりやすいのではないか」と分析する。男性は「ほとんどの理学療法士が自己防衛の手段を持っていない。抑止力という意味でも、自己防衛できる器具などを携帯した方がいいのではないか」と不安を口にした。

 事件が起きたふじみ野市を受け入れエリアに持つ訪問診療「やすぎクリニック」(富士見市)の渡部竜成院長も事件を受けて未然防止対策の必要性を訴える。

 在宅診療は、病院内での診療よりも患者家族とのコミュニケーション能力などが問われる分、必然的に1人当たりの負担は大きくなり、トラブルに直面しても自らで抱え込むことが少なくない。

 特に理学療法士は医師よりも顔を合わせる機会が多くなりがちで、悩みを抱えやすいという。渡部院長は「自分たちだけでどうにかしなくてはならないという仕組みを見直すべき」と、行政などにトラブルを相談しやすい窓口の設置を提案する。

 藤田教授も、トラブルや悩みを一人で抱え込まないためにも、治療に関わる理学療法士を増やすことが効果的とする。患者1人に対して、複数の理学療法士による交代制で治療に当たることで「重大な事態に発展するリスクを回避できるのではないか」と提起した。

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