埼玉新聞

 

震災の記憶を呼び起こして 埼玉・坂戸の美術館で企画展、教訓の風化懸念「もう一度関心を」 #知り続ける

  • 作品を前に企画展の狙いを語る土屋正臣准教授=2月26日、坂戸市けやき台の城西大学水田美術館

 2011年3月11日の東日本大震災から、11年が経過しようとしている。発生後間もない時期に被災地で撮影された写真などを通して記憶を呼び起こしてもらおうと、坂戸市けやき台の城西大学水田美術館で11日まで、「震災後10年のいま、これから」が開かれている。大震災をテーマとした企画展が同美術館で開かれるのは初めて。

 今回の展示は、現代政策学部の土屋正臣准教授(47)が企画した。会場内では宮城県気仙沼市のリアス・アーク美術館の学芸員らが同市内を中心に撮影した被災地の写真パネル81点のほか、収集した当時の生活をしのばせる被災資料11点を公開している。

 リアス・アーク美術館は高台にあったため、東日本大震災では津波の被害を免れた。自宅を流されるなどした学芸員もいたが、震災発生直後から被災地を巡って写真撮影を開始。構図にこだわったり、色の補正を施すなど、「記録」よりも「記憶」に力点を置いた作品に仕上げた。

 文化政策が専門の土屋准教授は、約3年前から大震災の被災地にある文化施設を訪れ、博物館や美術館が復興に果たす役割を研究している。津波で被害を受けた地域では近年、復興事業の総仕上げとして文化施設の建設が進む。だが、同准教授は「被災の状況は土地それぞれ違うはずなのに、展示されたものはどこも似通っている」と違和感を抱いていた。そんな時、リアス・アーク美術館を訪問し、「記憶」を主題に据えた写真などに心を動かされたという。

 破壊された街を写した写真では、転がっているドラム缶の赤色を目立たせたりと、学芸員らが当時感じた印象に近付けて加工した。キャラクターの目覚し時計やパスポートなど、撮影の傍ら集めた物は、今でも砂が出てくるため、ほとんどをビニール袋に入れて展示。学芸員たちが写真や収集物に触発されて連想した物語を、解説とは一線を画した文章にまとめて添えた。

 土屋准教授は「写真や収集物を見た人が、『あの時はこうだった』と記憶を呼び起こす切っ掛けになる」と言う。教訓の風化が懸念されるが、同准教授は「埼玉に住んでいる人も何らかの形で大震災を経験した。もう一度、防災について関心を持つことにつながれば」と願っている。

 開館時間は、午前9時半から午後4時半まで。日曜と3月7日休館。入場無料(要予約)。

 問い合わせは、城西大学水田美術館(電話049・271・7327)へ。

ツイート シェア シェア