日本人学生の学びに影 標的にされた特定外国人との交流会…排斥活動で団体名変更も ヘイトの現場から
川口市や蕨市で繰り返され、さいたま地裁が11月にデモを差し止める仮処分命令を出した特定外国人の排斥活動が、日本人学生の学びにも影を落としている。県内の大学では6月、ヘイトデモで標的にされた県内クルド人との交流会を開いたところ、非難の電話などがあり、安全を考慮して学生団体の名称変更を余儀なくされた。学生の指導教員やヘイト問題に携わる弁護士は、「埼玉でも罰則規定がある条例を」と訴える。
人権問題と社会保障が専門の芝田英昭教授(66)は、教壇に立つ県内大学でゼミ生に働きかけ、学生が4月に「クルド」の名を冠した団体を設立。クルド人を大学に招き、初の交流会を6月に行った。同教授は「国内のマイノリティー問題を考えるには、ターゲットを絞った方がいい。県内には多くのクルド人がいるので、対象にした」と説明する。聞き取り調査を円滑に進めるため、信頼関係を築く目的もあって企画した。
ところが、交流会の様子が報道されると、大学に激しく批判する複数の電話がかかってきた。芝田教授の携帯電話にも直接、「なぜクルド人を支援するのか」と一方的にまくし立てたり、無言で切れる着信が入る。交流サイト(SNS)の書き込みを見て、同教授に「怖い」と不安を伝える学生もいたという。
同教授は「学生に危険が及ばないようにするため、(団体の)名前を変えなければならなくなった」と振り返る。8月、「クルド」の言葉を外し、「多文化共生」を付ける名称変更を大学に届けた。
芝田教授と学生たちは、圧力に屈することなく、取り組みを継続。10月には、2回目の交流会を県内で開いた。ほかの大学3校の学生を含む大学生32人、クルド人約20人が参加。学生の提案で、クルド人の困り事相談にも応じられる専門職を呼び、1回目より内容を充実させた。
心配された妨害行為もなく、同教授は「クルド人と直接触れ合うことで、学生の理解は進んでいる。ヘイトデモやネットの情報で言われていることと、実際の彼らは違うと感じたようだ。多様な人が共生できる社会をつくるには、マイノリティーを知ることを続けなければ」と研究の意味を語る。今後は学生も交えてクルド人の聞き取りを進め、本にまとめる予定だ。
デモ差し止めの仮処分申し立てを行った日本クルド文化協会(川口市)の代理人を務めた金英功弁護士(36)は、誹謗(ひぼう)中傷の矛先が研究者や学生、支援者にも向けられる影響について、「被差別者を孤立させることで、新たな差別をつくっている」と指摘。「差別は無知から生まれる」とも語り、正しく知る取り組みが特定外国人の排斥を防ぐことにつながると考える。
一部の人によるヘイトデモも、放置すれば「ヘイトクライム」と呼ばれる特定の属性に対する差別や偏見に基づいた犯罪を起こし、最後は虐殺に行き着く。金弁護士は「国や自治体などの公的機関が、差別は許さないと積極的に発信し続けることが重要。そのためにも、法律や条例で規制しなければならない」と言う。芝田教授も「(刑事罰がある条例を持つ)川崎市のように、県内の自治体も条例を制定することが大切」と強調した。