埼玉新聞

 

もう友達じゃない…幼なじみに誘われた“仕事”は強盗 すぐ絶交できなかった22歳、捕まって懲役11年 人を殴ったことない21歳も“パチンコ打ち子”に応募…しかし暴行を指示され、男性を殴りながら「かわいそう」

  • 闇バイトに応募した男性が呼び出され、暴行を受けた仮設トイレ=10月10日、さいたま市西区の西遊馬公園

    闇バイトに応募した男性が呼び出され、暴行を受けた仮設トイレ=10月10日、さいたま市西区の西遊馬公園

  • 闇バイトに応募した男性が呼び出され、暴行を受けた仮設トイレ=10月10日、さいたま市西区の西遊馬公園

 「金が必要で、後のことは考えられなかった」。闇バイト応募者の男性を暴行した男(21)はさいたま地裁の法廷で、自身が闇バイトに関わった状況を振り返った。車内では、指示役が「よその案件やりましたよね」と男性を脅迫した。匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による闇バイトが絡む事件が今年相次いだ。指示役に使い捨てられる実行役。犯罪に手を染めた若者たちは法廷や拘置所で、自身の将来まで狂わせられた恐怖と後悔を語った。

 法廷に現れた男は小柄で、海外で調理師をしていた。細腕で人を殴ったことはないという。帰国後、X(旧ツイッター)で応募した「パチンコの打ち子」は「ATMでの見張り」に変わり、提示された高報酬に違和感はあった。当日に暴行を指示され犯罪と気付いたが、身分証を提示しており「自分も同じ状況になる」と引き返せなかった。男性を殴りながら「かわいそう。もうしたくない」と考え、地元に戻り就職活動中、逮捕された。

 男は今年8月、共犯者の男(25)と共に、埼玉県さいたま市西区の公園内の仮設トイレに呼び出された30代男性を暴行し、車に監禁。指示役は車内で、男性が別の闇バイトに応募したととがめ、「生きて帰れないかも」と金銭を要求した。さいたま地裁は「闇バイトに手を染めた者に制裁を加え、犯罪組織の維持を図った側面がある」とし、男に執行猶予付き有罪判決を下した。

 2022年に埼玉、茨城県で強盗など6件の実行役となり、懲役11年の判決を受けた男(22)を闇バイトに導いたのは幼なじみだった。「グレーゾーンの仕事」と誘われ、断ろうとするたびに「上の人に来ると伝えた」と退路を断たれた。「誰かに相談したら(幼なじみが)捕まる」と考えるほど大事な友人だったが、法廷では「もう二度と関わらない」と宣言。「なんで友達なのに(犯罪に)誘ったんだ。もう、友達じゃない」と失望だけが残った。夢だったお笑い芸人を目指すための専門学校進学も、「こうなった以上、夢は見られない」と諦めた。

 一方、詐欺の受け子をして懲役2年4月の判決を受けた男(28)は「後悔も罪悪感も、自分がだまして取った感覚もない」。10年以上続けた建設業に飽き、交流サイト(SNS)で「闇バイト」と検索した。個人情報を渡し「裏切るメリットはなかった」と淡々とした態度だが「組織の上層部は底知れない。接触した指示役も下の方だった」と組織の全容の不気味さを言い表した。

 闇バイト応募者を使い犯行を繰り返すトクリュウは、秘匿性の高い通信アプリを通じ身分証などを提示させ、個人情報を掌握。犯行をちゅうちょすると脅迫し、グループから抜けることを困難にする構図がある。県内の事件では、これまでに実行役やリクルーター、資金管理役など男女19人が逮捕された。うち約7割が10~20代の若者で、犯罪を重ね、捜査が及ぶと使い捨てられて報酬を得られなかった実行犯も多い。

 応募者の弁護を経験した県内の男性弁護士は「(闇バイトは)ハイリスクノーリターン。社会情勢に応じ厳罰化の傾向がある」と分析。「特に若年層は接する社会が狭く、周りの環境などに流されがちになる。自分の意思で踏みとどまるのは難しいケースが散見される」と指摘する。

 警察当局は来年早期にも、捜査員が架空の身分証を使って犯行グループに接触する「仮装身分捜査」を導入する。闇バイト応募者らの一時的な保護など、対策に本腰を入れており、ある県警幹部は「一つの捜査手法にこだわらず、踏み込んだ手法を積極的に検討しなければならない」と力を込めた。

■闇バイト

交流サイト(SNS)などで「高収入」などをうたって募集し、特殊詐欺から強盗や殺人などの凶悪犯罪に、加担させられるケースが多い。犯罪組織は犯人同士が互いに面識がないことや事件によって関わる人物が頻繁に入れ替わることなどから、警察当局は「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」として捜査を強化。県内では8~10月にかけて、関連する凶悪事件が4件発生した。
 

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