埼玉新聞

 

安全安心を最優先 大野知事・新春インタビュー 2024年「県に追い風が吹いた、良い年」 埼玉は海以外全てがある日本の縮図 「追い風の勢いが増すように」 県庁舎の位置については3月末をめどに一定の方向性

  • インタビューに答える大野元裕知事=県庁知事室

    インタビューに答える大野元裕知事=県庁知事室

  • インタビューに答える大野元裕知事=県庁知事室

 元日から震度7の地震が能登半島を襲った2024年。8月には宮崎県で震度6弱を記録し、南海トラフ地震臨時情報が初めて発表され、改めて日頃からの防災・減災対策が問われた。県内でも夏場の激しい雷と雨による被害が生じた一方で、7月に発行された新1万円札に深谷市出身の渋沢栄一の肖像が使われるなど、埼玉県が全国的に注目される一年となった。「埼玉県に吹く追い風の勢いが増すように」と語る大野元裕知事に昨年を振り返ってもらうとともに、新年に向けての抱負を聞いた。

■追い風が吹いた1年

―昨年を振り返り、埼玉県にとってどのような1年だったか。

 「元日に能登半島地震が発生し、9月には記録的な豪雨が能登半島に追い打ちをかけた。8月に宮崎県沖で震度6弱の地震が観測され、それに伴って南海トラフ地震の臨時情報が初めて発表された。首都直下地震も今後30年で70%の確率と予想され、自然災害への対応に、改めて防災体制を充実させなければいけないと感じた年だった。一方で、埼玉は明るいニュースが多かった。7月3日には深谷市出身の渋沢栄一翁が描かれた新1万円札が発行され、県では「渋沢って埼玉らしい」というキャッチフレーズの下、大いにPRできた。夏にはパリ五輪・パラリンピックが行われ、五輪では県関係で女子レスリング62キロ級の元木咲良選手とブレイキンの湯浅亜実選手、パラリンピックのゴールボール男子や車いすラグビー、車いすテニス女子ダブルスで金メダルを獲得された。農産物でも一昨年に引き続き、「あまりん」「べにたま」が最高金賞を受賞し、全国唯一のプレミアムいちご県の称号を頂いた。9月の全国梨選手権では、埼玉オリジナル品種「彩玉」が、一昨年の埼玉産「豊水」に引き続き2年連続最高金賞。数年間コロナで暗い時代が続いてきたが、総じて24年は明るい話題で吹っ飛ばしてくれた。県に追い風が吹いた、良い年だったのではないか」

―県民満足度調査では「豊かな自然と共生する社会の実現」に対する満足度が最も高かった。

 「埼玉は海以外全てがある日本の縮図。東京に隣接し、都市のにぎわいがある一方、豊かな河川、美しい山並み、豊かな自然に恵まれている。この両立に向け、さまざまな取り組みが評価され、満足度65・2%になったのではないか。川の保全、共生に取り組んでいるSAITAMAリバーサポーターズプロジェクトでは多くの個人や企業、川の国応援団にもご参加をいただき、清掃活動やイベントなど、いろいろな取り組みが行われてきた。また、太陽光発電など地域の実情に応じた再生可能エネルギーの普及拡大など地球環境にも優しく、環境負荷が少ない持続可能な社会づくりにも努めている。そういった中で、25年5月25日に秩父ミューズパークで全国植樹祭が、天皇皇后両陛下のご臨席を仰いで行われる。他方で県の森林の8割以上が伐採期にきており、伐採期の森林は二酸化炭素(CO2)の吸収量より酸素の排出量が多いので、環境にも決してよくない。植樹する場所がなくなることもあり、ぜひ木材製品をお使いいただいて、森林資源を循環利用する活樹のPRを強くしたい。都市と豊かな自然の両立に県民の皆さまにもご協力いただきたいと思うし、ご意見を真摯(しんし)に承り、それを県政運営に生かしていきたい」

■順大病院整備計画が白紙

―順天堂大学新病院の整備計画が白紙になった。

 「中止となったことは大変残念。県としても何度もスケジュールをずらして長く待ち続け、挙げ句このような結果になったのは大変遺憾である。病院公募の最大の目的は県内の医師不足地域への医師派遣なので、影響としては、この計画が中止になることが最大の影響だと思っている。他方で、大学を公募した10年前と今では医療に対するニーズも変わっている。全体としては医者余りの方向になっているが、一方で地域、あるいは診療科の偏在が懸念される時代。まずは新たな医療機関が必要かどうかも含めて、医療提供体制などを協議する地域医療構想調整会議や医療審議会に地域の医療ニーズなどを丁寧に伺う必要がある。先ほど申し上げた、全体は余るけれども、地域ごとに偏在することを検討した上で、今の病院整備予定地がどんな役割を果たすかという活用方法について考えることになる。従って、まずは医療偏在地域への医師派遣という課題にどう応えるか、専門家の方々の話を聞きながら検討したい」

―医師と病院をマッチングさせる県総合医局機構の機能強化は。

 「2013年に医師会とともに県総合医局機構を立ち上げた。地域枠の医学生奨学金の対応枠の拡大であったり、研修医の県内誘致など、いろいろな手法を使って医師確保に取り組んできた。先ほど申し上げた、偏在地域への医師派遣が最大の課題。ちなみに、その順天堂大学の開院を仮に計画通り行った場合には、27年11月の開院予定日までは2人。さらに、32年度からは20人規模での派遣となる予定だったが、本県の医師育成奨学金の貸与医師は、現状でも、32年度には400人を超える県内での義務従事者となる見込みで、今後は義務従事を終える医師も多数出てくる。こういった方々がいることを前提として、総合的にこれらを勘案して将来の医師派遣のニーズに応える必要がある。そのためには県医師会との協力が大変重要で、その後、研修生に長く定着していただくとか、そういったことも必要なので医師不足地域の医療機関などの意見をしっかりと伺い、対策を検討、実行に移していきたい」

■県庁舎、公共交通の在り方

―県庁本庁舎の整備はどのようなスケジュールか。

 「そのまま建て替えるのではなく、全ての事業や制度がデジタル化していることを想定して、そこから建物を考えることにしている。具体的に申し上げると、県民が庁舎まで来なくても、必要な手続きやサービスでいつでも利用できることを前提にした場合にどのような庁舎が必要なのか、あるいは、職員が働き方を柔軟に選択して創造的な仕事ができる環境においてはどのような職場が必要か、こういったその大規模な着想をゼロベースから考えている。そういった意味では、まずは県庁再整備のショーケースとして、北部地域振興交流拠点(熊谷市)の整備について今議論が具体的に進んでいるので、これと並行して県庁再整備も検討する。まずは県庁舎の位置について、これまで頂いたご意見を参考とし、3月末をめどに一定の方向性を示したい。それを基に、今度は来年度以降はこれまでの検討結果、ショーケースとしての北部地域振興交流拠点の状況も鑑みながら基本計画に相当する部分を含めた基本構想の策定に着手したい」

―公共交通の充実とまちづくりをどのように進めるのか。

 「公共交通を維持していくことは、少子高齢社会あるいは人手不足の状況でも大変重要である一方、2024年問題などさまざまな逆風が、公共交通だけでなく、運輸・輸送分野に吹いている。ただ、その状況は1年で一変することはない。超少子高齢社会が進展する20年後、30年後を見据え、まちづくりからやらなければいけない。歩いて暮らせるコンパクトなまちづくりを進めることで、公共交通への依存度は下がるが、しかしながら地域交通の維持・確保は重要。県ではスマート技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やコンパクトプラスネットワークの考え方に基づいて市町村、事業者を応援している。先般、和光市の自動運転バスを視察・試乗したが、手動運転と自動運転、ほぼ分からないほどスムーズだった。自動運転技術を活用したサービスは、深刻化する交通事業者の運転手不足を解決する有効な一つの手段と認識している。いずれにしても、市町村の取り組みとしっかり連携し、地域公共交通の維持確保、支援に取り組みたい」

■防災・減災対策に重点

―昨年の自然災害を踏まえ防災・減災対策は。

 「二つの歴史的課題の一つが激甚化・頻発化する自然災害などへの危機対応。仮に首都直下地震や、あるいは大雨で水害が起きる場合は多大な被害が生じると考えられ、能登半島で起きた複合災害も人ごとではない。大規模災害発生時に空調設備のない体育館で長期避難所生活を余儀なくされる場合には、熱中症など二次災害も想定される。当初は26年度以降に防災拠点校22校のうち10校について対応する予定だったが、設置を前倒しして25年度末までに空調設備の設置を完了できるよう、補正予算を計上した。それだけではなく、流域治水対策の推進や災害時の迅速な避難、救急物資の輸送を整える幹線道路網強化などの対策も重点的に行っており、昨年10月23日には関東地方知事会で、国土強靱化(きょうじんか)推進のための予算の安定的確保について、県が取りまとめて国に要望した。県5か年計画では安心、安全の追求を将来像の一つとして掲げ、25年度はこの5か年計画の4年目に当たる。掲げた取り組みをさらに進化をさせ、激甚化・頻発化する自然災害などを防いで、財産を脅かすリスクに対応し、県民の安心・安全な生活を確保したい」

■新年の抱負

―新しい年に向けて抱負を。

 「先ほど、申し上げた二つの歴史的な課題のうちのもう一つが、人口減少、超少子高齢社会の到来。県が持続可能な発展を続けるためには、私たちがしっかり対峙(たいじ)していかなければならない。人口が減少する一方、後期高齢者は日本でもトップスピードで増えていく。高齢者が増えて人口が減るということは、高齢者を支える働く層が減るということでもある。また、これに対して子供たちを増やした方がいいという議論もあるが、0歳から18歳までは労働生産人口ではなく支えられる方。働く世代はますます負担が重くなる。にもかかわらず経済を発展させる、高齢者・子どもたちを支えるためには、減少していく労働生産人口の労働生産性を向上させることが不可欠。われわれはまず価格転嫁を一生懸命進め、デジタル化、DX推進、ロボティクス、こういったさまざまな労働生産性を向上させる取り組みに強く力を注いできた。もう一つ重要なことは受給のバランスが逆転していること。これまで政治は、予算をさまざまな形で投入することによって需要を上げる、これに供給があったので追い付いて全体の経済が上がってきたが、今は需要を増やしても、コストが高いとか、働き手がいない。経済を持続的に発展させる政治に求められる役割が、この100年ぐらいで初めて変わる。今年は幅広い人脈を活用させ、そのマッチングを行う渋沢MIX、サーキュラーエコノミー(循環経済)などの新しい分野で労働生産性を上げ、埼玉版スーパー・シティプロジェクトも加速させる。また、安心できないと子育てはできない。将来的には人口を増やし、子どもまんなか社会をつくり上げていきたい」

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