埼玉新聞

 

「人生はやり直せる」帰りの電車で涙止まらず…受験失敗で断念した夢、コロナ禍を機に絵の制作を再開 飲食店の看板アート描く行田のデザイナーが初の個展 料理を食べ、おいしそうなポイントを強調 3月3日まで

  • 初めての個展を地元で開催している大藤友美子さん

    初めての個展を地元で開催している大藤友美子さん=17日、行田市本丸の行田市産業文化会館

  • 初めての個展を地元で開催している大藤友美子さん

 ソースの香りがしてきそうなゼリーフライや、米粒のもちもち感まで連想されるおにぎり。飲食店の看板などにメニューの絵を描いている埼玉県行田市在住のグラフィックデザイナー大藤友美子さん(41)の作品を集めた「おなかがすくアート展」が、同市本丸の行田市産業文化会館アートギャラリーで開かれている。大藤さんにとって、初めての個展。コロナ禍を機に長年封印してきた絵の制作を再開し、新たな道を切り開いた。

 米ぬかのライスワックスで作った画材などで描いた作品43点のほか、色鉛筆による下絵のレイアウト案も展示。大藤さんは「思いもよらない経験ができたのは、私の作品を受け入れていただいた人たちのおかげ」と感謝する。

 5人きょうだいの一番上だった大藤さんは県立伊奈学園高校時代、絵を仕事にしたいと考え、国立の美術系大学進学を目指した。だが、現役合格できず、きょうだいも多いため夢を断念。高校卒業の翌年、子供服や犬の服をデザインする会社に就職した。

 その後は会社を移り、2013年からフリーに転身。ポスターやロゴのデザインに携わるようになってもパソコンソフトで制作を続け、手で描くことは全くなかった。

 日本でも20年に新型コロナウイルス感染が急拡大すると、大藤さんの仕事も減った。休業を強いられた飲食店の窮状を伝える報道に接し、看板アートで支援できないかと思ったという。大藤さんは基礎を学び直すため、教室に入会。「受験に失敗して自信をなくしていたけれど、絵が好きだったことを思い出した」と、初参加した帰りの電車で涙が止まらなくなった。

 21年6月、なじみがある市内の店に看板アートを無料で1週間置かせてほしいと申し出た。すると、期間が過ぎた店側が買い取りを希望。写真共有アプリ「インスタグラム」に投稿した画像を見た店や口コミでも依頼が舞い込むようになる。行田市周辺に加え、群馬県や神奈川県、大阪府など、約90店の看板アートを描いてきた。大藤さんは「遠くではない限り、店へ料理を食べに行き制作する。おいしそうなポイントを強調して表現し、看板の8割は絵で埋まるようにした」と言う。

 大手コーヒーチェーン店での絵画イベントも実現した。今後の目標は、海外から仕事を受注すること。一度は絵を諦めた大藤さんは「人生はやり直せると知った。思いはかなう」とほほ笑んだ。

 展示は3月3日まで、午前9時~午後4時半(入場は同4時まで)。2月8日休。入場料は大人300円、子ども100円。関連イベントは、1月25日に「スイーツを描いてみよう!」、2月22日に「ハンバーガーを描いてみよう!」を実施。いずれも時間は午後1時~同3時、参加費は大人600円、子ども400円(入場料含む)。

 問い合わせは、同会館(電話048・556・6371)へ。

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