バキバキと激しい音…勝手に山の3分の1を違法埋め立て、崩落して川氾濫 不審な土は即通報を…見分け方は
秩父市は市内の違法な土砂の埋め立てを防止するため、「土砂たい積110番」を4月に開設。市民たちに不審な埋め土を見かけたら、すぐに市に通報するよう呼びかけている。昨年7月には静岡県熱海市の盛り土が崩壊し、多数の死者・行方不明者が出た。秩父市田村地区でも2020年7月、山間に積まれた土砂が崩落。けが人は出なかったものの、土砂が川に流入して周囲の田畑などが浸水した。市は「熱海のような土石流災害は、秩父でも起こり得る」と懸念。今後の梅雨入りに備え、警戒を強めている。
■自分の山に勝手に
「バキバキと激しい音が聞こえ、窓をのぞくと、谷から大量の土砂が流れ出し、立ち木を次々となぎ倒していた」。20年7月25日午前11時ごろに発生した秩父市田村の土砂崩落を、自宅前で目撃した宮下泰男さん(65)は振り返った。
当時は梅雨の末期で、連日の雨。崩れた土砂は宮下さん宅から50メートルほど離れた蒔田川をせき止め、川沿いの田んぼの一部を埋めた。「こんな危険な場所に堆積したら、土砂が流れ込んでしまうことは明らか。人家に被害が出なかったことは唯一の救い」と宮下さん。
県産業廃棄物指導課によると、崩落現場は宮下さんが所有する山林(約4400平方メートル)。「自分の山に勝手に土砂が積まれていることを知り、おととしの1月に現場に行ったら、山の3分の1を占める大量の土砂が沢の上部に積まれていた」。
違法な埋め土の発覚後、宮下さんは県の環境管理事務所などに報告。崩落事故は県などが調査を進めている間に起きた。崩れた土砂は約1万立方メートルとみられ、県は20年9月、行政代執行で土砂を撤去した。
■許可なら看板設置
秩父市によると現在、農地法違反や現行条例の規制対象外で堆積を繰り返しているとみられる事例が市内で数件確認されている。熱海市での土石流被害を受けて、市は21年9月から、違法な残土投棄の監視強化パトロールを実施。市職員やシルバー人材センター会員らが週5日間、市内の警戒活動をしている。
開設された土砂たい積110番では、残土投棄に関する情報を市民らから募り、無許可で堆積している事業者に迅速な是正指導をしていく。県の関係機関や警察などと密接に連携しながら、条例の罰則規定の強化や、違反事案への刑事告発などを推し進めていく。
市の「土砂等のたい積の規制に関する条例」では、事業区域の面積が500平方メートル以上、3千平方メートル未満の堆積は市の許可が必要になる。3千平方メートル以上は県への許可が求められている。市が許可を出している土砂たい積事業地には許可標識の看板が設置してあり、許可事業かを見分けることができる。
市生活衛生課は「市民の安全確保のため、違法な埋め土は決して放置することはできない。通報者はしっかりと保護するので、安心して問い合わせてほしい」と市民らに情報提供を求めている。
宮下さんは「違法業者は法の規制をかいくぐりながら、堆積を繰り返している。熱海での土石流災害を教訓に、市が監視を強化するほか、国や県も違法業者を厳しく取り締まるような法改正に取り組んでほしい」と訴え、今回の通報ダイヤル開設を機に、「市民全員が堆積問題に関心を持ち、少しずつでも課題解決につながってほしい」と期待している。
不審な埋め土情報は、秩父市生活衛生課(電話0494・25・5202)へ。