埼玉新聞

 

道に落石、土砂流入…メガソーラー施設建設「業者任せで事故」 埼玉で進む条例化、課題は今も

  • 2度の土砂崩落があった大規模太陽光発電施設。裁断したばかりとみられる丸太が置かれ、準備の形跡はあるが、「休工中」の表示が出たままだった=2日、越生町小杉

  • 地域住民の生活道路に崩落した巨石=2019年3月11日(越生町提供)

 地球温暖化を抑制するため、再生可能エネルギーへの転換が求められている。国は近年、大規模太陽光発電施設(メガソーラーなど)の建設を推進。県内でも、休耕農地や傾斜地に太陽光パネルが並ぶ光景は珍しくなくなった。一方、不適地などの開発を巡り、事業者と住民の対立も起きている。今年1月には、小川町で計画された大規模発電所について、山口壮環境相が見直しを要求。県内の自治体では、規制条例の制定が相次ぐ。だが、条例化で課題が全て解決するわけではない。

 県エネルギー環境課によると、県内で太陽光発電施設の設置に関する条例やガイドライン、要綱があるのは、4月1日現在で30市町村。そのうち、より強制力を備えた条例は9市町が定める。特に目を引くのは、国から「待った」がかかった施設の計画地小川町をはじめ、ときがわ、嵐山、滑川、鳩山、越生の6町が4月1日から一斉に条例を施行したこと。いずれも、里山や中山間地が多い県西部の自治体だ。越生町では開発中に起きた2度の土砂崩落が、条例化の引き金となった。

 山地が町土の約7割を占める越生町。標高千メートルに満たない低山が連なるが、傾斜のきつい山が多いのも特徴だ。そんな同町小杉の山林で2016年、大規模太陽光発電施設の計画が動き出した。町まちづくり整備課によると、開発地の一部は県が指定する急傾斜地崩壊危険箇所となっているという。現役時代は土木関係の仕事に従事した小杉区前区長の手島克明さん(72)は、「勾配が急で災害の危険があるのは明らか。説明会に出席したが、業者にも問題がある」と懸念を抱いた。

 心配は的中する。19年3月、樹木が伐採され、むき出しになった斜面から、すぐ下を走る道路に巨石が崩落。同年10月には台風19号の大雨で大量の土砂が同じ道に流れ込んだ。幸運にも人的被害はなかったが、小杉のほか龍ケ谷、麦原地区へと通じる生活道路でもある。小杉に住む木下尊規さん(88)は「業者任せだから事故が起きた」と、手島さんらと共に町の対応を促す活動に取り組んだ。

 越生町はこれまで、太陽光発電施設の建設には町の「開発行為等指導要綱」を適用してきたが、規制や指導が十分にはできないと判断。町議会3月定例会で条例案が提案され、可決、成立した。

 条例では、都市計画区域では発電出力または太陽電池の合計出力が10キロワット以上、その他の区域では同50キロワット以上の設備を対象とする。災害の防止や自然環境保全のため、町長が事業の禁止区域を指定する(第7条)ほか、町との事前協議前の事前相談届の提出義務(第12条)、説明会後に地域住民が計画への意見を町長に申し出ることができる(第16条)―などと規定。町が計画を早期に把握して周知させ、町民の声を踏まえながら対応できるようにした。まちづくり整備課の担当者は「禁止区域の指定を定めた条例は全国でも少ない。今後は不適切な開発をかなり抑制できると考えている」と言う。

 だが、問題は積み残されたままだ。小杉の計画地では応急的な復旧工事の後パネルが取り付けられ、昨年2月から発電出力750キロワットの施設が稼働。町は雨水貯留池建設や道路沿いに落石防止柵の整備などを指導しているが、実現していない。木下さんは「安全対策が終わる前に発電が始まるなんておかしい。危険な場所に造られていても、業者が手を付けたら止める方法がないのが現実」と嘆く。

 ずさんな工事や安全対策の遅れは、事業者が次々と変わったこととも無縁ではない。登記簿などによると、発電事業は開発計画がスタートした後の18年4月、栃木県の企業に引き継がれた。施工業者も交代している。発電事業者の担当者は取材に対し、「工事は前の会社が行う契約で権利を買った。しかし、実際はそうではなく、われわれが指導を受けてしまった」と説明。今後については、「5月下旬から工事を始めた。本格着工は6月で、3カ月ほどかかる見通し」としている。

 木下さんらは、経産省が認定した再生可能エネルギー発電事業計画で、太陽光発電の番地未確定設備が町内に28カ所あると指摘。うち21カ所が小杉地区となっている。実際、周辺では業者側の接触を受け、地権者が難色を示したため断念したとみられる例が幾つか報告されているという。少子高齢化や過疎化に伴い、管理が行き届かなくなった山林を当て込み、事業者が開発を進めようとしている構図が透けて見えるようだ。

 同課は「計画が出されれば、条例に基づいて指導していく」とする。だが、木下さんは「より広い視野から太陽光発電を位置付けないと。後追いで規制しても、根本的な解決にはならない」と案じる。

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