埼玉新聞

 

八潮の道路陥没1カ月…事故から「災害」に拡大 下水、軟弱地盤、ガス管など集中…救出活動を阻む複合的な障害 「法的・制度的整理が必要」知事、首相に提言…挙げられた課題とは

  • 発生から1カ月がたった県道陥没事故の現場

    発生から1カ月がたった県道陥没事故の現場=2月28日午後、八潮市内

  • 発生から1カ月がたった県道陥没事故の現場

 八潮市で県道が陥没しトラックが転落した事故は、28日で発生から1カ月が経過した。いまだ運転手の70代男性の救出には至らず、一刻も早い救出が望まれている。事故から災害に拡大する想定外の事態に、県や消防などの救出作業の連携に課題が浮かび上がった。危機対応時の自治体の調整権限について、大野元裕知事は「法的・制度的整理が必要であるように感じられた」と国に提言した。

■二つの指揮系統

 事故発生を受け、救命救助活動を開始した草加八潮消防の隊員2人が、崩れてきた土砂で負傷し救急搬送された。活動停止に追い込まれるまでの間、県には事故と救出作業の大まかな経緯が報告されたものの、ガス事業者などの限定的な関係者以外には情報が共有されなかった。

 1月29日朝の時点で、内閣府防災は今回の事案が法に基づく「災害」には当たらないとし、県が立ち上げた危機対策会議は法に基づくものではなく、厳しい状況の中で「事故対応」を行う消防、複合的な「災害対応」を担う県、二つの指揮系統が並行して存在することとなった。

 県は2月11日、下水を迂回(うかい)させる仮排水管設備のバイパス工事と、運転席部分に向けた掘削を開始する方針を固めた。災害救助法を1月29日にさかのぼって適用し、それまでの課題を払拭する体制へと移行したが、大野知事は「より早いタイミングで災害対策本部が設置されれば、より円滑な連携・調整およびフェーズの移行が図られたのではないか」と吐露した。

■想定外の事態

 土砂やがれきを押し流す下水に、硫化水素や軟弱地盤、ガス管、上下水道などの集中地点となっているなど、複合的な障害が救出活動を阻み、さいたま市消防局、埼玉東部消防組合消防局、東京消防庁が応援に入っても、地域消防が実施している活動以上の手段は見いだせなかった。

 2月5日に行われた、飛行型の超狭小空間点検ドローン調査で収集したデータから、下水道管内に運転席部分らしきものが発見され、その後運転席部分に男性が残されている可能性が示されても、消防・自衛隊は救命・救出について明確な回答を用意することができなかった。

 防災ヘリを除いて危機管理に際しての実働部隊を有していない県は、消防や自衛隊などの関係機関同士の強固な連結を推進し、災害対応能力を高める「埼玉版FEMA」を構築し、2020年からさまざまなシナリオを作成してきた。いずれも県が総合調整能力を発揮できる、法の定める災害を想定しており、今回のように事故が拡大し災害となる事態を想定していない。

■法や制度の整理を

 国土交通省は2月21日、再発防止策を検討する有識者委員会の初会合を開いた。5年に1回以上としている法定点検のペースを引き上げる必要があるかどうか検証し、弱い地盤に埋設されている下水道管などを対象に、点検頻度を明確化することが考えられる。

 大野知事は同20日、石破茂首相と官邸で面会し、財政と技術面で支援を求める要望書と、危機対応時の自治体の調整権限についての提言書を手渡した。知事は自ら作成した提言書の中で「法的・制度的整理が必要であるように感じられた」と、連携・調整の過程で生じた課題を挙げた。

 ◇

提言書で挙げられた課題
(1)事故事案として消防内で完結させる当初の前提継続
(2)事故対応→事故+災害対応の結果、連携不十分に
(3)事故ゆえに災害対策本部立ち上げがためらわれた
(4)過酷な状況下での救命・救出手段の欠如

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