埼玉新聞

 

拷問の末、24歳で非業の死…社会運動家・伊藤千代子の生涯描いた映画、全国で広がる ベテラン俳優も登場

  • 映画「わが青春つきるとも」より(監督・製作=桂壮三郎)

  • 「信念を持って正しい生き方を追求する生き方はどの時代でも共感を呼ぶ」と話す桂壮三郎監督=1日、所沢市内

 治安維持法違反で逮捕され、24歳で非業の死を遂げた社会運動家、伊藤千代子(1905~29年)の生涯を描いた劇映画「わが青春つきるとも」の自主上映会の輪が全国で広がっている。監督とプロデューサーを務めた所沢市在住の桂壮三郎さん(74)は「命を懸けて信念を守った千代子の生き方が共感を呼んでいる」と話す。11日には所沢市で上映会が開催される。

 伊藤千代子は現在の長野県諏訪市の生まれ。小学校の代用教員などを経て入学した東京女子大学でマルクス主義に出合い、社会運動に身を投じていく。故郷の製糸工場の労働争議、労働農民党の選挙支援などに関わり、共産党に入党。1928年に治安維持法違反で特高警察に逮捕された。拷問を受けても変節しなかったが、同志でもあった夫の転向、長期の拘留が彼女の精神をむしばみ、入院した病院で肺炎のため24年の短い生涯を閉じた。

 桂さんはこれまで社会派の映画を製作しており、2019年9月に伊藤千代子の生涯の映画化を企画。藤田廣登さんの「時代の証言者 伊藤千代子」を原作とした。千代子役は新人の井上百合子さん。竹下景子さんや石丸謙二郎さんらベテラン俳優で脇を固めた。

 自主制作映画のため、資金集めが難題だった。1口10万円で上映会を1回開くことができる「上映債権」を販売。「支援する会」の協賛金と合わせて協力を呼びかけた。治安維持法下で弾圧を受けた人の国家賠償を求めている治安維持法国賠同盟や、映画の趣旨に賛同する市民たちから支援の声が次々と上がり、販売した上映債権は550口に上った。

 全国上映が始まったのは4月中旬から。大きな映画館ではなく、公民館などで市民や団体が主催する自主上映会が中心。今月末までに200カ所で上映する予定で、年内には400カ所近くになる見通しという。口コミで広がっているといい、桂さんは「驚異的な数字」という。

 拷問にも屈することなく信念を貫き通した千代子。桂さんは「戦後、(国民主権や男女平等など)千代子が訴えていたことが正しいことが立証された。暴力では思想は変えられない」と話す。ロシアのウクライナ侵攻などで再びきな臭い空気が漂う中、「この時代のことをよく知らない若者たちに、この映画を見てほしい」。

 所沢の上映会は11日に新所沢公民館(同市緑町1丁目)で。午前10時~と午後2時~の2回上映。問い合わせは、所沢上映実行委の佐藤さん(電話04・2942・3159)へ。

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