スマホ普及で迫る脅威 手軽さゆえに短期間で1千万円以上を「溶かす」ことも 依存症、本人が病気だと認識することが唯一の治療法/ギャンブル依存の今(上)
コロナ禍の巣ごもり、スマートフォンの普及でオンラインギャンブルの影響が拡大している。違法性を認識せずに、オンラインカジノに手を出してしまう若者も。依存症が指摘され、手軽さゆえに短期間で1千万円以上を「溶かす(失う)」ことも珍しくない。窃盗や特殊詐欺などの犯罪に手を染めてしまうケースも多いという。ギャンブル依存症の自助グループは「家族や職場にも相談できずに苦しむ人の気持ちは同じ経験をした当事者が一番理解できる。一人で抱え込まず相談してほしい」と呼びかけている。当事者と家族の苦悩を2回に分けてレポートする。
■自覚が唯一の治療
2月16日、NPO法人「全国ギャンブル依存症家族の会埼玉」が、さいたま市大宮区で会合を開催。千葉県の30代女性が夫妻そろって依存症になった経緯を語った。優しかった夫が乱暴な性格に変わっていく様を涙ながらに振り返り、「依存症自体は氷山の一角。根本にある原因を突き止めなければ解決にならない」と話した。自らの体験談として「自力で解決できるという過信が回復を遅らせる」と力説した。
夫は自己破産し現在も別居中だが、夫妻そろって自助グループに通うまで回復した。当事者を支援する側になった女性は「依存症は進行性の病気。自分の健康のためにも、とにかく自助グループに通って」と呼びかけた。高学歴や高収入など世間的に成功者といわれる人ほど「自分だけで判断をしがち」と語った。
ギャンブル依存症は脳の機能不全による精神疾患。大当たりした際などに出る神経伝達物質(ドーパミン)の異常分泌によって興奮が抑えられず、やめたくてもやめられない状態となる。依存者の多くが日常の孤独感や不安感を一時的に紛らわそうとギャンブルを繰り返し、抜け出せなくなる。アルコールや薬物依存と同じく「否認の病」とされ、本人が病気だと認識することが唯一の治療法とされている。世界保健機関(WHO)も正式に認める病気だ。
■犯罪に陥るケースも
ギャンブル依存症は法的に認められた競馬、競輪、競艇、オートレースに加え、パチンコ・パチスロ遊技、外国為替証拠金取引(FX)や仮想通貨といった投資でも陥りやすい。賭博罪(50万円以下の罰金または科料)に当たるオンラインカジノも急増し、過去1年間で利用した人の数は全国で約350万人ともいわれる。芸能人やスポーツ選手の関与も明らかになった。常習性があれば3年以下の懲役に科せられ、警察庁や消費者庁は強く注意喚起している。
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京)によると、依存症相談者の逮捕歴は13・9%(2021年)、被害総額は半数が1千万円以上に上る。最悪の場合は自殺や犯罪につながりかねず、同会は21年から当事者支援部を開設した。依存者とのミーティングやギャンブルサイトへのアクセスを制限するアプリの啓発にも取り組んでいる。
自らも逮捕歴のあるサポートメンバーの40代男性は「ギャンブル依存はれっきとした病気。だが周囲からは病気と思われず、単にだらしない人間だと人格否定される。まずは社会全体が病気であることを認識する必要がある」と訴えた。
【ギャンブル依存の当事者支援の主な相談窓口】
◇全国の精神保健福祉センター
◇公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会(電話070・4501・9625)
◇一般財団法人ギャンブル依存症予防回復支援センター(フリーダイヤル0120・683・705)
◇GA(ギャンブラーズ・アノニマス)日本インフォメーションセンター(電話046・240・7279、毎月最終日曜の午前11時~午後3時)