ずっと違法…他人の土地を半分以上、土砂で埋める 中止命令を無視、土砂崩れに なかったかもしれない逮捕
違法に土砂を堆積したとして、県警生活経済課と秩父署の合同捜査班は21日、不動産侵奪の疑いで日高市田波目、自営業の男(61)、秩父市大野原、会社役員の男(54)、秩父市田村、会社員の女(53)の3人を再逮捕した。
再逮捕容疑は共謀し、2020年2月20日ごろ~同年7月25日ごろまでの間、秩父市田村の他人名義の土地で建設重機などを使用して立ち木を押し倒し、承諾なく土砂を搬入、堆積した疑い。捜査に支障があるとして認否を明らかにしていない。
同課によると、土砂を堆積していたのは秩父市田村の建材運搬販売会社「興和」で61歳男が実質的な経営者だという。
土砂は多数の場所から運ばれてきており、他人名義の土地約4413平方メートルのうち約2965平方メートルを侵奪していた。
県が興和に対し堆積を中止するよう勧告したが従わなかったため、20年7月7日、県が県警に県土砂条例違反容疑で告発。同12月14日に県警が受理していた。
男らは5月31日、事故を起こしたダンプの修理費を運転者に負担させようと見積書を偽装し行使したとして、有印私文書偽造・同行使の疑いで逮捕されていた。
同課は土砂の処分代を浮かせるためだったとみて余罪など詳しく調べる。
県産業廃棄物指導課によると、土砂は08年ごろから堆積されるようになった。興和は、土砂堆積の申請をするなどしたが、申請した土砂とは別の土砂を堆積するなどし、違法な状態が数年にわたり継続されていた。
20年7月、堆積した土砂が崩れ、蒔田川に流入。川がせき止められ、周辺の田畑に浸水被害が生じた。土砂崩れが起きる約1カ月前の20年6月、県は興和に堆積中止命令を出したが、従わなかった。中止命令から土砂崩れが起きるまでに約1万立法メートルの土砂が堆積されたとみられる。
県は、流れた土砂の撤去などを興和などに求めたが、応じなかったことから、同年9月、行政代執行による土砂の撤去を開始。約1・5億円の費用をかけ、約1万立法メートルの土砂を撤去した。
■災害起きる前に重い罪を
「実際に土砂崩れが起きていなかったら、今回の違法業者は、そのまま捕まることはなかったのかもしれない」。2020年7月に土砂堆積被害に遭った、秩父市の男性(65)は語る。
同市田村の所有山林(約4400平方メートル)に無許可で土砂が積まれている現状を、男性が目の当たりにしたのは同年1月。「現場に行くと、既に大量の土砂が沢の上部に積まれ、立ち入れない状況になっていた。重機が動いているのも確認した」
被害発覚後、すぐに県の環境管理事務所などに報告したが、「行政機関は法令にのっとった管理や取り締まりしかできないのが現状。監視を強化しても、常習性のある違法業者は、決定的な証拠を残さずに、何度も同じことを繰り返すのではないか」と、内心感じていたという。
男性によると、所有地に10年以上前から無許可で土砂を入れられている被害住民は市内に少なくない。「業者に是正勧告を行っても、強制力がなく、解決に至らない」と感じ、行政に報告しない住民も中にはいる。
「今回は人的被害を出さずに事件が解決したからほっとしている。災害が起きる前に、違法業者に重い罪を与えられるような仕組み作りが必要」と強調する。違法な埋め立てを防止するためには、「依頼した業者が残土処理状況をきちんと把握し、違法な埋め土が発覚した場合は、依頼主にも連帯責任が及ぶように法改正を行うべき」と訴える。
昨年7月に発生した静岡県熱海市の土砂災害や、今回の容疑者逮捕を機に、「国民全員が堆積問題に関心を持ってほしい」と語った。