大津波に巻き込まれた幼稚園バス…園児5人が犠牲に 長女亡くした母親が埼玉で講演 「当たり前が幸せなことだった」と実感
東日本大震災から11日で14年を迎えた。宮城県石巻市の日和幼稚園では送迎バスが大津波に襲われ、5人の園児が犠牲となった。震災の教訓を伝えようと、東松山市の松山町公会堂で、長女を亡くした「日和幼稚園遺族有志の会」の佐藤美香さん(50)が講演を行った。参加者に「(震災前の)当たり前が幸せだったと実感した。防災について考えてほしい」と呼びかけた。
講演は東松山市立松山中学校・昭和49年卒業生有志の会が企画した。
佐藤さんの長女愛梨ちゃん=当時(6)=は、日和幼稚園に通う年長児だった。2011年3月11日午後2時46分、大震災が発生。石巻市にも大津波警報のサイレンが鳴り響いた。同幼稚園は山の高台にあり、佐藤さんや保護者は「子どもたちは幼稚園にいれば大丈夫」と信じていた。
ところが園児12人を乗せたバスは山を下っていった。道路は高台に避難する車で大渋滞していた。バスは大津波に巻き込まれ、4~6歳の園児5人が犠牲になった。
その後の調査によると、バスは園児を降ろしながら途中の小学校に立ち寄ったという。その時、幼稚園の職員2人がバスに駆け付けて運転手に「バスを幼稚園に戻して」と伝えた。当時バスに残っていた園児は5人。幼稚園は歩いて数分の場所だった。そのまま職員が園児を連れ戻していれば、悲劇は起きなかった。
助かった7人の園児の話によると、亡くなった愛梨ちゃんは「(バスの中で)皆泣いていたが、愛ちゃんは泣かないで、一人で皆を励まし続けていた」という。母親の佐藤さんは「あの日、娘が行ってきますと出て行って、ただいまの声がまだ聞けていません」と振り返り、「震災前は当たり前が私にとって幸せなことだったと、震災後に気が付いた」と実感。そして「もう笑顔で帰ってきてくれることは二度とありません。自分の命、大切な家族の命を守るにはどうしたら良いか」と聴衆に問いかけた。
最後に佐藤さんは、幼稚園と保育園の防災訓練の格差の是正も訴え、「(今回の講演が)防災について考えるきっかけになれば」と結んだ。